2015年12月20日

自動運転の技術開発と検討すべき課題


人が自動車を運転するという行動は、刺激を知覚し(認知)、その意味を読み取り(判断)、それに対する適切な行動をとる(操作)という一連の機能から構成されている。
まず認知機能とは、運転に必要な情報を摂取する機能を指す。運転に必要な情報の80%は目を通して摂取されているため、基本的に視覚機能を通して行われると言っても良い。そして、視覚機能は加齢の影響を最も早く受け、40歳代後半から低下し始める。
次に判断機能とは、情報内容を適宜分析し、運転行動に結びつく意志決定を行うことである。例えば、赤信号が点灯していれば車を止めるという意志決定を行う。また、交差点で対向車が迫っていれば、その距離とスピードを瞬時に把握し、自車両の右折が可能であるかどうかの意志決定を行う。
そして、操作機能とは、意志決定に基づき、運転行動に直結する操作を行うことである。具体的には、ブレーキを踏む、ハンドルを切るといった行動を指す。
 自動車の運転に求められる「認知-判断-操作機能」は、心理学的には、筋能力と感覚との調整(協応)能力といった「サイコモーター特性(精神運動能力)」で説明される。サイコモーター特性は、加齢に伴い劣化することが一般的に知られている。そのため、認知機能に関しては、高性能カメラ、レーダーなどで車の周囲を360度常にチェックすることにより、障害物や道路標識を発見したり、あるいは他車との距離を計測することにより、人間の見落としをカバーしている。
 判断機能についても、カメラやレーダーからの情報を人工知能で高速処理し、交通ルールや地図データと照合し、車の走行や停止の意志決定に結びつけていく。
 操作機能に関しては、人工知能の判断をもとにハンドル、ブレーキ等が電気信号で瞬時に正確に操作され、ドライバー自身は全く運転操作に関与しなくても良いことになる。
 したがって、自動運転システムとは、自動車に各種センサーや、人工知能を備えたコンピューターを取り付け、人間が操作することなしに自動走行する技術を指すと言える。
 これによって、免許を失効した高齢者や体の不自由な人が、自動車で移動できるようになったり、運転者の単純ミスによる事故が減り、安全性が大幅に向上する。さらに、渋滞軽減なども実現可能になる。こうした交通社会への移行が徐々に進んでいるが、2020年代以降には本格化すると見られている。
 しかし、自動運転社会がもたらす新たな問題も同時に指摘され始めている。私は次の4点を指摘したい。

(1)ジュネーブ条約見直しの議論
ジュネーブ条約とは、自動車を含め、人命を左右する乗り物にはパイロットやドライバーが乗っていないといけないとの合意事項を各国で批准したもの。世界中に9億台走る自動車分野で、自動運転技術が急激に進めば、条約見直しの議論が高まる可能性がある。

(2)事故責任の帰属先問題
事故責任の大半が、従来は運転者に帰属し、自動車メーカーに責任が及ぶことは稀であった。しかし、自動運転車の場合、車の所有者や同乗者に対する責任は問いにくく、 製造元責任が問われる可能性が高い。これを自動車メーカーが受け入れるかどうかが、今後の焦点となる。

(3)セキュリティーとプライバシー問題
 個人走行データが自動車メーカーや警察に送られ蓄積されることになる。IT技術に長けた人物が、自動車に設置された各種センサーや、人工知能を傍受することにより、新たな犯罪が起こる可能性がある。

(4)市場受入れの条件としての提案
 以下の2点を提案したい。
安全性、セキュリティーの面での技術が、一定水準を超えるまでは市場導入は認めない。ハードルを高く設定し、技術者の方々にはそれを超える努力をして頂きたい。
70歳(あるいは65歳)以上ドライバーに対して、優先的に自動運転車を低価格で販売する。ただし、自動運転によるマイカー走行は、地方エリアに限定し、公共交通機関が充実している都市部では認めない。この政策が、高齢者の地方移住をもたらし、地方創生に結びつくことを期待したい。(所正文)