2016年1月20日

世代の融和―世代間葛藤を止揚して、融和を!

 NHK総合テレビ 116日・土曜日の朝の番組(週刊 ニュース深読み「18歳選挙権 私の1票がニッポンを変える!?」で、若者世代を中心とした政治に関す討論番組の一コマ。老人優遇策は「けしからん」の論調の番組を見た。
低所得高齢者への3万円支給。補正予算による特別支給は、「老人優遇策で、次の選挙目当てだ」という論調。「若者世代の年金は将来、納付額よりも給付額が少ない」、「なぜ、日本の将来を担う若者世代を優遇しないのか」、「政治家は、目先の票目当ての政策しか採らない」、「いつも次世代に繋がる本質的課題は先送りだ」などの論調で、他世代の擁護派もいたけれど、まるで老人世代は邪悪の根元といった雰囲気だった。若者世代は教育、成人世代は仕事、老人世代は余暇というかっての紋切り型の人生区分の名残の反映だろうか?
 長年の社会・経済を支えてきた祖父母世代・父母世代、そして今の若者世代という3世代の対立の構図はどうして生まれるのか?
 人の生涯発達に断続はないというのが生命科学の事実である。20年後には、今の父母世代に入り、そして40年後には、今の祖父母世代に近づくのが今の若者世代。気づいた時には、老人世代と見なされているのだ。その時、また時の若者に、老人は悪、けしからんのどつぼにハマっている!ことになる?
 生きることの価値は何か? 。経済?、健康?、人間関係?、生きがい? どれも大事。これらは、全ての世代が協働して関わらねば実現しない。対立よりは融和、バランスが大事!
日本人には明確な人生哲学が少ない、哲学より現実の経済を優先すると言われるが、生涯を見通す人生哲学を個々人が持つことが必要と言われる。先輩世代に対する無関心・葛藤・対立の構図は、21世紀日本の生産的な未来にはつながらないことを自覚し、相互理解と融和につながる世代間交流と諸政策が必要と切に思う。(谷口)

新たに発生した医学適性問題


75歳以上ドライバー対象の高齢者講習では、アルツハイマー型認知症のみに適用される認知機能検査が実施されているが、認知症にはこれ以外のタイプも複数存在する。昨年5月の本欄でもこのことは一部紹介した。とりわけ、交通事故と密接な関わりがあるとされるピック病が捉えられないことは大きな問題である。ピック病とは前頭側頭型認知症であり、脱抑制によって、センターラインを超えて蛇行運転する、交通標識や信号などの交通規則を守る気がなくなるといった特徴がみられる。出現頻度は認知症全体の5%程度とされるが、高齢ドライバーが激増すれば、それに伴い認知症を罹患したドライバーも増えることになり、必然的に5%の占める実人数は大幅増となることが避けられない。
さらに、最近では、てんかん、突発性けいれんなど、認知症とは異なる疾病に起因する高齢ドライバーによる事故が次々に報告されている。昨年10月末に宮崎市中心部で起こった事故もその一つである。今後高齢ドライバーが激増していく中で、こうした疾病の予兆を、運転免許更新現場でどれだけ把握できるかという問題に突き当たる。すなわち、医学適性に関する簡易検査を運転免許更新現場に次々に導入することは困難であると言わざるを得ない。そこで、基本的な考え方と具体的方策について以下に述べたい。

【基本的な考え方】
国民皆免許時代と言われて久しく、自動車運転免許の取得が安易に考えられ過ぎている。この際、免許取得基準および免許更新基準を高めても良いと思われる。要するに、一定年齢以上のドライバー(例えば、高齢者講習受講対象者)に対して、更新基準を強化するのではなく、全ドライバーに対して強化していくということである。

【具体的な方策】
排除の論理が適用される「医学適性」については、免許更新現場に医療関係者が立ち会っていくべきである。具体的には、熊本県で実施され始めた経験豊かな女性看護師のカウンセリングは有力な方法の一つである。医療関係者から免許の自主返納を勧められた場合、家族等から言われるよりも説得力が増すと思われる。ただし、同時並行的に運転断念後の移動手段の確保、並びに高齢者本人に対するメンタル面でのケアを怠ってはならない。免許対策ばかりに目が行きがちな現実は要注意である。(所正文)

バス転落事故 運転手の待遇に問題はなかったか


 2016115日、痛ましい事故が起きてしまった。長野県軽井沢町で、スキーツアーのバスが道路から転落し、15人が死亡するという大惨事となった。
 この事故の原因として考えられるものとしては、車体の不具合、運転ミス、運転手の体調異変などが挙げられるが、現在も調査中であり、詳細は不明である。気になったのは、運転手が65歳と高齢で、しかも大型バスの運転に不慣れだったと伝えられていることである。
 なぜこのような人物に運転させざるを得なかったのか。近年、外国人観光客の急増などで、バス業界は過当競争となっており、バスの運転手が不足し、運転手にかかる負担が増加して労働環境が悪化し、ますます人が集まりにくい状況になっている。そのために、多少運転スキルに難がある人物でも採用せざるを得なかったのだろう。
 このような事故が起きるたびに、国土交通省は規制を強化し、今回の事故でも、ツアー会社やバス会社に対して監査に入ったり、他の会社に対して抜き打ち検査などを行っている。しかし、これでは対症療法的であるばかりか、運転手たちをかえって萎縮させてしまうことになりかねない。根本的な解決のためには、運転手の待遇改善が必要である。それは給与面だけでなく、長時間勤務などの負担を軽減することも含まれる。それによって、質の高い運転手も確保できるだろう。
 バスの運転手と同様の人手不足の問題は、介護士や保育士でも起きている。これらが不足しているのも、低賃金を含めた待遇の悪さが原因である。また、バス運転手も含めたこれらの職業は、誰でも簡単にできる仕事だと誤解されているかもしれない。例えば、以前に大阪市営バスの運転手の年収が高すぎるとして批判を浴び、削減されたことがあった。もしかすると我々の社会は、簡単で誰でもできる仕事なら低待遇でも構わない、と考えてはいないだろうか。そのような職業差別的な意識が、今回の事故のみならず、様々な社会的問題を引き起こしてはいないだろうか。
 バスの運転手は決して誰にでもできる仕事ではなく、高度な技術が必要とされ、さらには多くの人命を預かる責任重大な仕事である。そのような仕事に敬意を表し、待遇改善を図っていくことが、最大の安全対策である。(鈴木聡志)

2016年1月4日

運動習慣をつけるには、スモールチェンジの行動は有効か?


 東海大学健康クラブ活動の参加者を対象として、日々に実践している運動実施頻度と運動・スポーツの促進要因と考えられる「スモールチェンジ行動」の使用頻度との関係を調査した。

 対象者は、いわゆる運動行動に関するTTM理論のステージで、7割が実行期と維持期にある人々で、無関心期はゼロ、関心期は約1割であり、不定期だが運動をしている準備期と定期的に運動をしている実行期と維持期を合わせると、運動の実践者は約9割であった。

 筆者が運営に参画している東海大学:健康クラブのような総合型地域スポーツクラブに所属している運動好きな人は、どのような「スモールチェンジ行動」を採用しているのであろうか。

 スモールチェンジ行動とは、日常生活の中で、無理なく禁煙や運動や食生活の行動の変容を図るための心掛けのことである。

 当クラブの研究倫理審査会の承認を得て、参加者(108:40 人、女68)の運動を行うためのスモールチェンジ行動の活用度を調べた結果、次のような回答が得られた。

 実施率の高い順に紹介すると、「自分の体力に見合った距離や量を考えながら運動を行う」73%,「一緒に運動する仲間がいる]47%,「家族や友人に定期的に運動をしていることを伝えている」39%,「家で運動グッズを目につきやすい所に置いている」37%,「近くに運動する場所があるか事前に調べてある]36%,「定期的に健診を行い、運動ができるどうか体調チェックをしている」28%,「仕事の合間など、ちょっとした時間があれば体を動かしている」17%,「天候不良の時や寒暖の差の大きい日などに、運動するときの対策を立てている」11%,「運動に関する記録を,目につきやすい所に表にして貼っている」9%の順であった。性別の実施率に有意差が認められた項目は、「家で運動グッズを目につきやすい所に置いている」(25%,44%:全体37%), 「自分の体力に見合った距離や量を考えながら運動を行う」(85%,67%:全体73%)2項目のみであった。回答者の年齢は男66歳、女63歳であり、いわゆる高齢期の移行期にある健常な人々であった。

 このように、日々のちょっとした心がけが、運動実施への促進要因になっていることが明らかとなった。一回30分以上・週3回実施・3カ月以上継続する運動(3033運動と称している)が、神奈川県の運動実施率の数値目標であるが、実際はその段階に達していない地域が多い。本調査の実施地域である伊勢原市は、この3033運動の段階に達しているのは、約22%である。また同市内でも居住地区による実施率の格差も最大5%と比較的に大きい。国の健康作り運動である「健康日本21(第二次)でも、運動習慣に限らず、栄養・休養の健康づくりの対策や健康寿命の地域間格差を少なくすることが課題になっている。

(谷口。第一分野・健康・スポーツのコラム)

エイジズムと自己有能感


 筆者は、前期高齢期に入った団塊の世代である。

 ある小さな学術学会の常任理事を担っているが、昨年の理事改選後の仕事は、ほとんど無くなってきた。一応、選挙で選ばれた理事なので、無碍にその席を外す訳にも行かないというのが、執行部の苦慮しているところであろうか。

 もう一つの、やや大きな学術学会では、今年の役員の改選期に、ここ数年間一緒に仕事をしてきた仲良しの先輩や後輩の後押しもあって、10数年ぶりに役員選挙に挑戦した。第一次の社員(評議員)選挙には運良く当選したが、第二次の理事選挙には、見事に落選した。

 もう一つ、全国では最大規模の職能団体を誇る協会の地区役員選挙の理事選に挑戦した。図らずも、現役の有名大学教授の方と、ひとつの分野理事の席を競うことになってしまい、これも41の得票差で、見事に落選した。

 ところで、企業には、二つの定年があるとのことである。つまり正規の定年退職に先立つ10年前に、役職定年が訪れるとのこと。いわゆる平の社員として、かっての部下であった上司の下で働くことになるらしい。

 老人ホームや老人病院に入居・入院すると、その人が自宅にいた時よりも、早々に気力が落ちて、心身ともに衰弱が早まり、死期が早まるものらしい。自尊心を損なう機会が多いことが一因と想像される。

 老人福祉施設で働く介護職員の年間離職率は、一般企業の年間離職率の二倍近くに登るらしい。きつい・汚い・給料が安い・健康に悪いなどの4Kと称される職場は、介護の社会的位置(ポジション)や地位(ステイタス)が低く見積もられている傾向にあり、介護者に元気が出ないのだ。

 心理学の用語に、自己有能感という用語がある。まだまだ他人様や社会のために貢献できるという自尊心に裏付けられた自信のようなものと定義されている。

 そして、生きがい研究や上手に年を取る(サクセスフルエイジング)ための研究では、この自己有能感を高めのが良いとされている。

 一般社会の側に、ある年齢に至るともう一線から退くのが当然という暗黙裡の同意があり、個人の生活意欲を削ぐ結果となっていることも否めない。これをエイジズムと称している。自己有能感を低める社会のシステムが厳然と支配していると言っても過言ではない。体は元気・心が萎えるという構図である。

 駅前のコーヒーショップには、一見して定年退職後間もないと思われる人たちが、新聞や単行本を片手に、暇を囲って長時間滞在されている。彼らの知力や生活技能を発揮できる場が、地域に用意されていないのだ。

 このような社会情勢の中で、人の生きる意欲を高めるには、どのようにしたら良いのか。

社会の側に、自己有能感を高めるための役割づくり、生きがい醸成の場づくりが必要となろう。真の健康長寿を維持するための喫緊の課題である。一億総不活発社会に陥らないために。(谷口、第二分野・教育のコラム)

新刊書籍の紹介


 この度、日本応用心理学会企画『現代社会と応用心理学』(全7巻)が刊行された。日本応用心理学会理事長の「刊行にあたって」という序文によると、応用心理学会の第一回大会が1946年に開催された以来、本年(2015)まで計80回大会が開催されており、学会設立以来、長い歴史を重ねているとのこと。今回、応用心理学の関係領域のなかから、現代を象徴するトピックを取り上げ、学会企画として上梓することになり、ついに本企画の全7冊を刊行するに至ったとのこと。

添付の書籍の表紙写真は、その第7巻目の著書「高齢社会」(12/20/2015刊行、福村出版)である。応用心理学会常任理事の内藤哲雄氏と玉井寛氏の編集になるもので、トピック1からトピック24まで取り上げられている。本セミナーの共同運営者である谷口幸一がトピック1「現代社会と高齢化」を、また同じく所正文がトピック6「高齢者の交通安全」を執筆している。全体を通読することによって、現代の心理社会的分野の老年学の課題の全容が明らかになるものと思う。老いの生活課題を見通すのに役立つと思われる。

Washington,D.C. 2015.11.5.6 snaps 関係者の学会活動

Washington,D.C. 2015.11.5.6 snaps  関係者の学会活動 その1

Washington,D.C. 2015.11.5.6 snaps  関係者の学会活動 その2

経営者の経営理念は労働環境に大きな影響を与える

参考記事

 2008年にワタミグループの居酒屋「和民」で、女性社員が入社2か月で過労自殺し、遺族が損害賠償を求めていた裁判で、創業者で現在は参議院議員を務めている渡辺美樹氏らが約13千万円を支払うことで和解が成立した。渡辺氏は自身の法的責任を認めて謝罪したほか、ワタミは労働時間を正確に記録し、未払いの残業代を支払うなど、労働環境の改善策も和解内容に含まれているという。

 そもそも、なぜこのような悲劇が起きてしまったのか。渡辺氏はワタミを一代で大企業に育て上げ、食品宅配や介護事業にも進出するなど、優れた経営者であることは間違いない。その一方で、社員に過酷な労働を科すことでも知られており、「24時間365日死ぬまで働け」とまで言われていたという。ワタミはブラック企業という言葉が普及し始めた当初からそのように認識されており、元祖ブラック企業ともいえる存在であった。

 渡辺氏は自身が過酷な労働を経て成功したという経験から、人間はがむしゃらに働くことで幸せになれると信じ、それを社員にも押し付けていたのではないだろうか。しかし、すべての人間がそのような労働に耐えられるわけではない。自分に出来ることは人にも出来るはずだという思い込みが、今回の出来事につながったのではないか。

 逆に、経営者が社員のことを大切に思っているならば、その会社の労働環境も良いものとなるだろう。しかし、労働環境が経営者によって左右されるというのでは、リスクが大きすぎる。労働環境が経営者の影響を受けすぎないように法律などの環境を整えていくことが必要である。(鈴木聡志)