2014年8月28日

21世紀の日本全般

この先の日本社会は??

この先の日本を、人口統計からイメージしてみましょう。
みなさんはどんな社会の姿を思い浮かべていますか?


アウトライン:21世紀の日本全般

(以下、解説 : 所 正文)

2010年以降、毎年県庁所在地都市一つ分の総人口減が続く。
出生率も伸び悩み高齢化率の上昇も続く。
近未来には移民の受け入れが進み、
異文化共生社会への転換が予測される。


2025年には65歳以上人口比率30%の大台を超え、
2040年には36%に達し、
総人口も1億人を割り込む可能性が高い。


2050年には総人口9000万人
65歳以上人口比率は40%という
想像を絶するような超高齢社会になることが見込まれる。



21世紀中盤には、
経済の活力を維持する手段として、
アジア近隣諸国からの外国人労働者の受け入れが有力視される。


現代の若者たちは、
こうした大変革を遂げる21世紀中頃の
日本社会を生きていくわけであり、
それを踏まえて人生設計を組み立ててほしい。


21世紀の日本社会は、
明治期や昭和の高度経済成長期に駆け上がった坂道を
今度は数十年かけてゆっくりと下っていく。
急速な少子高齢化が進む日本社会を
世界は壮大な社会実験場として注視しており、
どのようにソフトランディングさせることができるのか、
日本人の知恵が今こそ試されている。


以下に主な見通しと対策について述べたい(週刊東洋経済2012.12.29)

(1)超高齢社会では医療・介護等のサービス分野の需要が大幅に高まるため、
  女性の活躍の場は広がる。 一方、製造業や建設業などの男職場は減少する。

(2)年金支給開始年齢が70歳まで引き上げられ、
  高齢者の労働参加率が大幅に高まる。
  一方、家事・育児の市場化も進められ
  働き盛り女性の労働参加がより促進されるだろう。

(3)2050年まで毎年10万人ずつ移民を受け入れるべきとの大胆な提案も出ている。

(4)2030年代にはグローバル企業の人材争奪戦が激化し、
  優秀な人材を獲得しないと生き残れない。
  すでに20年代にはインド、中東、北アフリカ、東欧等からの採用が活発化し、
  日本の本社は従業員トレーニングのための場になるという予測が出ている。

(5)「学生なら『日本以外で働きます』と言わないと
  職がない時代が遠からず来る。
  30歳代であれば海外赴任を積極的に申し出た方が良い。
  40歳を過ぎて勤務先が外国人社長となった場合、
  海外勤務ができない社員は真っ先にリストラされる」という
  経営コンサルタントの未来予測は現実味を帯びている。

(6)人口減少によって地方の無居住化地域が広がる。
  男性で30代までに結婚して安定雇用で定年まで働き、
  子どもを2人程度持つ「標準家族」を作れる人は
  1990年頃までは約9割に上ったが、
  今後は4割程度に留まると家族社会学の専門家は予想する。


【キーワード】
 ・2040年の日本の姿
 ・多文化共生社会
 ・異知の融合

2014年8月27日

21世紀?研究?

本研究セミナーの設立について


この研究セミナーは、
早稲田大学心理学会の一研究部会である「老年学研究部会(2002年~)」の
構成メンバーによって、新たに企画されたものです。
したがって、「老年学(gerontology)」の研究が、
このセミナーの下地となっているということができます。

超高齢社会の日本では老年学の重要性は
益々高まっていくでしょう。
しかし、ただ「高齢期」や「高齢者の課題」だけを扱っていればよいのでしょうか?

若者世代はこれからの21世紀を担う、
あるいは作っていく主体とも言えるかもしれません。
ですが、多くの20代、30代の若者にとって、
親の老い、自分の老いと言われても
非現実的に感じられてしまうのではないでしょうか。
その一方で、
実際に家族の老いの問題に直面し、
生活やキャリアに重大な影響を受けている人も
少なくありません。

若い世代にこそ、
これからの「老いの問題」の
当事者意識が必要になってくるのではないでしょうか。

私たちは、21世紀の日本は、人の老いを視野に入れながら
各世代の連携が必須の時代であると認識しています。
様々な学問分野から
総合的に老いの文化を日本に流布させることが
本セミナーの趣旨です。

10年、20年先、この21世紀を生きる各世代が、
明るく希望をもって生活できる社会を
今から考えることが必要ではないでしょうか。

このような趣旨に賛同頂ければ、
本研究セミナーはどなたでも歓迎いたします。

関連する生活上の課題や、ご自身の研究課題をお持ちの方が
ご参加くださること、
自由な形の話題提供とディスカッションを展開し、
結果を様々な形で社会への提言することを
実現したいと考えています。

また学生や、若手の研究者の方々にとっては、
研究のヒントテーマ探しに役立つかもしれません。

とにかく、多くの方々に参加頂くことを求めています。
まだまだ開催したばかりで、
組織としても未熟な会ですが、
興味を持たれた方は、是非ご参加・ご連絡を頂ければと思います。

「21世紀日本研究セミナー」をどうぞよろしくお願いいたします。



キャリアとライフ その1

若者・仕事・キャリア



「キャリア」という言葉は、「職歴、経歴」を表わし
かつてはごく一部の良い仕事や
プロフェッショナルな職業をイメージさせる言葉でした。

しかし現在は、仕事の面から見た人生そのものを指す言葉として、
一般的に使われています。
教育機関においては、
さかんに「キャリア教育」、「キャリア設計」等の言葉が使われています。

今の学生あるいは若い世代にとって、
生涯の仕事への考え方も、待っている社会の状況も
以前とは全く変わっています。

21世紀の仕事と生活について、みなさんはどのように向き合いますか?


アウトライン:キャリアとライフ(1)

(以下、解説 : 所 正文)

1.若者のキャリアとライフ

生き続けるために必要なことは3つ、
健康であること生きがいを持つこと一定の経済力があることである。
そのための基盤を20歳代のうちに築いておくべきであろう。


精神分析の開祖であるジークムント・フロイト(Freud,S.,1856-1939)は、
正常な人にできることは、働くことと愛することである」と言っている。


人生とは、社会的・文化的脈絡の中でストレスに対して積極的な対処行動をとり、
愛の関係を大事にしながら、自己実現を目指して、
常に自らの能力を発揮し続ける過程であると理解される。
この営みは、人生時計が止まるまで生涯を通じて続いていく。


生き続けるために必要なことは3つ、
健康であること、生きがいを持つこと、一定の経済力があることである。
そのための基盤を20歳代のうちに築いておくべきである。


「沖縄は日本の将来の縮図だ」と那覇市の人材会社社長は話す。
「台頭する新興国の若者たちは好条件の職を貪欲に求め来日する。
中国人もインド人もわずか数か月で
日本の新聞が読めるようになり、言葉の壁はない」と強調する。

これに対して、日本の若者はどうか。
2010年の日本人留学者数は約58000人とピーク時の04年から3割減である。
「内向き志向」がより顕著だ。

世界を見渡すと、製造業の集積する新興国が
雇用や賃金を先進国から奪う局面が続いている。
日本の若者が世界の若者と雇用を奪い合う構図
今後より鮮明になるだろう。
日本の若者が自らを磨き、彼らが活躍する環境を日本社会が整え、
総力戦を挑んでいくことにより日本の未来が救える(日経新聞2013.5.5)


長い人生へ向けて、
20歳代から積極的に社外の人間関係拡大に努めることが必要である。
職場の同僚との人間関係は、
転職や定年退職により断絶することも少なくないため、
職場とは無関係のつながりを若いうちから構築できれば好ましい。
このつながりが、やがて強力なソーシャルサポートとなる場合がある。


家族や親族とのつながりは、若い時には面倒に感じられるが、
遠い将来のことを考えれば大切にしたい。
少子化が進行しているため、
兄弟姉妹のみならずいとことの付き合いを大事にできれば好ましい。
つながりを絶えさせなかったことが、
後々心強いソーシャルサポートになる。


人生で最も親密な関係を築くのが家族であるため、
幸福感を得るためにも結婚はした方が良い。
配偶者との生活に加えて、
子供の誕生により家族の深いつながりが芽生え、
家族に対する強い責任感にもつながる。
そのため20歳代から30歳代前半にかけての年齢段階は
人生において大変重要である。


新卒一括採用の慣行が根強い日本の労働市場では、
一度就職でつまずくと専門技術や技能を持った人を除けば再就職の道は狭い。
そんな日本での仕事に見切りをつける氷河期世代も出始めた。

シンガポールで花屋を開業した31歳の男性。
飛び入り営業で販売先を開拓した。
今では欧州有名ブランド店のショーウインドーに彼の店の花が飾られる。

今の雇用慣行では30代後半から再就職のハードルは一気に上がる。
その高齢フリーター層に氷河期世代が入り始めている。
彼らの再挑戦を受け止める雇用・労働環境をつくることは、
日本の労働行政の大きな課題になっている(日経新聞2013.1.13)



アウトライン:キャリアとライフ(2)につづく

2014年8月26日

キャリアとライフ その2


中高年・キャリアの長期化・生涯現役


アウトライン:キャリアとライフ(2)

(以下、解説 : 所 正文)

2.中高年のキャリアとライフ



団塊の世代を含む60~64歳の5割超
65歳以降も仕事を続けたいと考えている。
70歳以降でも3割近くが仕事をしたいと望んでいる。

かつては、「給料がなくても働きたい」という人も少なくなく、
会社人間として仕事で満足が得られるように生きてきたため、
定年後に趣味で同じ満足度を得られる人はむしろまれであったと言える。

しかし、最近では、仕事をする理由として、
生活費を得るため」(63.8%)をあげる人が最も多く、
公的年金のみでの生活が厳しく、
生活のために働かざるを得ない現実を窺うことができる(日経新聞2012.2.22)
 


生涯現役の人の4つの特徴とは、
・人生に対して積極的な姿勢があること
・対人関係力が高いこと
このスキルでは負けないといった
 「売り物」(高い専門的能力、例えば資格)持っていること、そして、
・自分から売り込んでいること(ただし自分の人脈の範囲内)、である。


キャリアの長期化に伴い、求められる専門的能力も変容する。
そのため、専門的能力を高めていく研鑚のための努力がとりわけ重要である。
働きながら新しい分野を学び、隣接領域にシフトしていくことも
キャリアの複線化へ向けて効果的だ。
その際、長年の人的ネットワークは大変役に立つ。


「同一業務での継続雇用」を多くの人が希望する。
しかし、それを実現できる人は極めて少ない。
一方、「同一業務での独立自営」、すなわち一人コンサルになって、
現在の仕事を請け負いで引き続きやっていくスタイルを取れればベストである。

ただし、その場合、無理をせず、
ローリスク・ローリターンであることが原則となる。
また、発展型として「新規事業を独立自営」という方法もある。
この場合には、40歳代後半からから
社外で通用する専門的能力を身につける努力を始めておく必要がある。
(日経新聞2012.9.28)


人生80年時代に生きがいを持って生きるためには、
職業生活以外にそれと同等に精神エネルギーを投射する価値領域を見出したい。
いわゆる複線型人生の推奨である。
できれば40歳代から、遅くとも50歳を過ぎた頃から
新たな自己実現の道を模索したい。


自分以外の人のことを配慮して生きてきた、
その人の『時』こそが、その人の寿命の長さではなく深さである
ということを、若く散ったが、よく生きた友から学ぶと。
そして、自分中心に生きてきた時間に、
こうした『』を加える努力をすることが、
生きがいを持つことに繋がる。
他人に対する思いやりは、自らに対しても幸福感をもたらす。


他人が関心を持ってくれる。
見捨てられ、忘れ去られているのではない。
そうと知ることが大事である。それで人間で生きていける。


現代人は、巨ゾウ並みのスケールで、ネズミよりも速い時間を生きている。
しかし、脈拍などの体のリズムは石器時代とほとんど変わらない。
超高齢社会においては、急速調のアレグロの価値観から、
緩徐楽章のアンダンテに転じることが重要である。


人間はそれぞれ認知的フィルターをもっており、それによって世界を解釈している。
認知的フィルターに歪みがあれば、
否定的感情(否定的自動思考)がもたらされ、うつ気分にさせられる。
そこで、否定的自動思考を心理療法のプロセスにおいて本人に意識させ、
次に認知フィルターの歪みを修正することを通して、
人格や行動に健全な変化をもたらすところに心理学の役割が存在する。


たとえ死刑囚といえども、
臨床家はその内面に微かな光(ともしび)を見いだすことができるという。
その「ともしび」こそが、まさに人間としての「生きる意志」であり、
それが大きな炎として全体に広がれば、
その人物は真人間として生きることができたのだという。
残念ながらその人物は生きる意志であるともとびに
気づく(気づき,awareness)ことができなかった。
大きな炎にならなかったのだという。
自己認知に関わる重要な知見である。

[引用文献]所正文著『働く者の生涯発達:働くことと生きること』
        白桃書房,2002年.


【キーワード】
・キャリアアンカー
・先払い・後払いモデル
・人生時計
・生きがい年金
・エンプロイアビリティー(雇用され得る能力)

2014年8月25日

介護と医療

超高齢化・介護の保障・認知症


だれもが要介護状態になる可能性があります。
だれもが要介護状態の家族を介護するかもしれません。

その時に生活はどのように変わるのでしょうか。
若い世代にも、
生活やキャリアに重大な影響を受けている人が大勢います。

これからの21世紀日本では、
要介護高齢者の生活を考えることを、
避けて通ることができません。



アウトライン:介護と医療

(以下、解説 : 谷口 幸一)

高齢者の15%以上、85歳以上の40%が認知症患者とされる。
患者本人の苦しみもさることながら、
介護者の負担軽減について有効な方策を探っていかなければならない。


日本の国民医療費は、
2010年度の厚生労働省の概況によれば、総額37兆円
その内の55%(20兆円)は高齢者(65歳以上)の医療費である。


2000年の公的介護保険制度が発足以来、
第1号被保険者数は、2013年時点で、3,072万人となっている。
その高齢者のうち、要介護(要支援)認定者数は、554.5万人である。


介護に要する介護経費は確実に増えており、
年間の総額は8兆円に近付いている。

医療費削減と介護費用の削減化は一体のものであり、
超高齢社会の進行に伴い、
個人の心身の自立度を高める介護予防対策と
QOL(生活の質)を高めるライフスタイルの改善を図る
有効な方策の提言が求められている。


2013年度厚生労働省の調査統計によれば、
高齢者の15%以上、85歳以上の40%が認知症者である。

また、認知症予備軍と称せられる
軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)の人口も400万人と言われる。
当事者である認知症者自身の苦しみもさることながら、
認知症者の介護を担う介護者
負担の軽減化の有効な方策を探ることも大きな課題である。



【キーワード】
・QOL(生活の質)
・認知症介護

2014年8月24日

女性の生き方

21世紀の女性・高齢女性のこれから・社会進出


時代・地域を問わず、女性の平均寿命は男性より高いと言われています。
そして、世界一の平均寿命(WHO「世界保健統計2014」)である日本女性は、
高齢者として生きる期間も世界一長いとも言えます。

これまで社会を支えてきた高齢女性の
これからの生き方について
私たちは議論をする必要があります。


一方で、21世紀の日本社会は、
女性の活躍が経済・社会の発展の鍵であると言われています。

女性が生きやすく、働きやすい社会のためには何が必要でしょうか?
これからの社会の変化が、
結婚、家族関係、子育て、介護等、これまでの生活に
どのような影響や変化を与えるでしょうか。
女性の社会進出と生きやすさの向上にむけた幅広い議論が求められています。

(21世紀日本研究セミナーは、
 この領域の研究について、十分な情報を持っているとはいえません。
 特に、この領域に明るい方々の 参加・発表を待望しています)



アウトライン:高齢女性の生き方

(以下、解説 : 所 正文)

後期高齢者(2010年で1400万人超)の3分の2近くが女性である。


男性にとっての定年退職である「60歳」は、
女性にとって単なる人生の通過点。


昭和の激動期を生き抜いてきた高齢女性は、
社会的な成功や物質的な豊かさのみを求めて生きてきたわけではない。
目に映るもの、心に感じるもの、
そのひとつひとつを楽しみながら生きてきた人が多い。
生きることの素晴らしさを我々に教えてくれている。


額に汗しながら日々の家事労働に打ち込み、自分の持つ能力を発揮し、
さらにそれを通して何かを学び、
自分自身を高めてきた多くの高齢女性がいることを忘れてはならない。

すなわち、ささやかな家事労働、小さな家庭行事であっても、
自分の持つ能力を発揮し、それを通して何かを学び、
自分自身を高めていくことは可能である。
高齢女性の生き方の中に、自己実現のヒントが見いだせる。


家庭生活地域社会への貢献を目標に
自己実現の課題を見出すことが重要である。
自分の持つ能力を総点検し、
地域社会のために今の自分は何ができるか」を
原点に立ち返って考えることが大切である。



【キーワード】
・男女雇用機会均等法
・コース別雇用管理制度
・ジェンダー研究
・ライフヒストリー

2014年8月23日

車と生活

「交通は社会の縮図」である。
生活の舞台となる社会が高齢化すれば、交通現場にもその影響は現れる。
交通社会と社会全体が、表裏一体であるとするなら、
交通社会の変革が社会全体の変革に繋がる。



アウトライン:車と生活

(以下、解説 : 所 正文)


日本の交通事故死者数は年々減少しているが、
交通事故死者数全体に占める高齢者の割合は逆に年々増加しており、
2009年以降は50%を超えている。


交通警察行政では、
先進国で唯一、70歳以上に対して免許更新時に一律に高齢者講習を導入し、
さらに75歳以上には認知症の簡易検査を行うなど、
高齢者の方々に運転能力の低下を自覚してもらおうと努めている。
世論を含めて、総じて高齢ドライバーを取りまく人たちの多くは、
危ないから運転は止めてほしい」という意見のようである。


高齢ドライバーの方々は、
運転を止めてしまえば、移動手段を奪われることになり、
病院へも買い物へも行けなくなるため、強く反発している。
この背景には、わが国の大部分の地域が、公共交通機関の発達が不十分であり、
マイカーに依存した移動を強いられていることが関係している。
加えて、車の免許を持つことが
高齢者にとって自立の象徴になっていることも関係している。


そのため、主に公共交通機関が不十分な地域で、
自治体主導で運転を断念した人、
あるいは運転免許を保有していない人のための移動手段確保のために
デマンド交通システム(=ワゴン車等による乗合タクシーシステム)」が
導入され始めている。


わが国の地方都市に、
これから公共交通機関を復活させることは極めて困難であるため、
今後10数年、すなわち、2010~20年代頃までの
地方社会の交通システムを展望すれば、
デマンド交通システムの構築がベストである。


わが国よりも一足早く車社会を展開し、
すでに高齢社会に突入している欧州先進諸国の場合
高齢ドライバー問題は基本的に大きな問題にはなっていない。

理由は、高齢者は自分自身が危険と感じたら
自主的に運転免許を手放す人が多いからである。
個人差が大きく、80歳を超えても運転を続けている人もあれば、
また60歳代でも運転を断念する人もいる。


交通社会を制御しているルールは市民全員が絶対に守らなくてはならず、
また守らない人に対しては厳罰を持って処す態勢が、
欧州社会では交通行政当局によってきちんと構築されている。
そのため、交通社会に参加する最低ラインであるルールを
守れそうもなくなったと自分自身で感じたときには、
高齢者は静かに身を引いている。
すなわち社会全体が高齢ドライバーに対して自己責任を求めるスタンスであるため、
日本のように一定年齢以上の人に対して一律に講習を課す必要はない。


欧州の地方都市の場合、
一定の公共交通機関が整備されているため、
運転を断念しても、高齢者にとってその後の生活にあまり不便が生じない。
欧州では20世紀後半に車社会が本格化しても、
地方都市の道路から路面電車が駆逐されることはなかった。
その理由は、公共交通機関とマイカーとの役割分担が
きちんとルール化されたことにある。


一方の日本は、
1970年代になると、経済性の原理だけで自動車が地方都市の道路へ侵入したため、
経済効率に勝る自動車のみが生き残り、路面電車や自転車が駆逐された。
そのため、量販店、病院、公共施設は、
広い駐車場を確保するために郊外への移転を余儀なくされた。
これによって、地方都市の中心部は空洞化した。
そして、マイカーを持たなければ買い物にも病院へも行けなり、
日本の高齢者は、少々の健康上の問題が生じても
運転免許を持つことに執着せざるを得ない


交通は社会の縮図」であるために、
生活の舞台となる社会が高齢化すれば、
交通現場においても、その影響は随所に現れる。
交通社会と社会全体が表裏一体であると考えれば、
交通社会の変革が社会全体の変革に繋がる。


ヨーロッパの交通社会には、
日本の交通社会では見られないシステムが色々と存在する。
こうしたシステムがヨーロッパ社会に定着している背景を探っていくと、
最終的には文化論的な視点にたどり着く。
自動車交通と環境問題、交通事故対策、
そして超高齢社会との関係で21世紀の日本が目ざすべき社会を考えると、
行き着く先はいずれもヨーロッパ型の社会であり、アメリカ型ではない。


21世紀中頃には、総人口が現在に比べて4000万人近く減少し、
その上高齢者比率が大きく上昇する。
そのため、経済の活力を維持する手段として、
アジア近隣諸国からの外国人労働者の受け入れが有力視されている。

高齢者に不向きとされる交通運輸部門の職種の多くは
外国人労働者に委ねられることになり、
とりわけバスやタクシー、宅配便ドライバーなどは、
基本的に若い外国人ドライバー主体の職業組織になるだろう。

すでにその兆候が見られる。
警察庁が自動車教習所テキスト、および運転免許の学科試験に関して、
日本語以外に中国語、英語、スペイン語、タガログ語などの採用を
各県警本部に通達し、
特に中国語テキストの印刷部数が増えているとのこと。
このままいくと2030年を待たずして、
日本の交通運輸の現場は中国人によって席巻されそうである。


新しい市民社会が構築されれば、
日本の高齢者は自ら危険を冒して運転をすることもなく、
ある程度のところで運転を断念することに抵抗を感じなくなるだろう。
そして、一人暮らしの高齢者が非常に多くなるため、
高齢者は比較的都市部で
定年退職後の人生の一時期を過ごすことになるだろう。
コンパクトシティー化の促進)

自動車交通の観点からすれば、
都市部は基本的に公共交通機関を利用した移動を原則化し、
自動車での移動は物流業者や緊急車両など大幅に制限されるように思う。


また、高齢者の移動に関しては、
現在少しずつ導入が進んでいるデマンド交通システムとは異なりそうだ。
その理由は一人暮らしの高齢者が激増すると、
彼らは公共交通機関が利用できる都市部へ移動すると予想されるからだ。
それによって、現在大きな課題となっている
地方社会で暮らす高齢ドライバーの問題、
すなわち、運転免許を断念すると病院にも買い物にも行けない
と言った難問は自然に解決する。


そして、都市部に高齢者が集まることにより、高齢者同士の交流が活発化し、
再婚なども今より多くなると予想される。
これによって、「孤族化」といわれる問題も徐々に解決の方向へ向かえば好ましい。

[引用文献]所正文著『車社会も超高齢化:心理学が解く近未来』学文社, 2012年.



【キーワード】
・高齢者講習
・認知機能検査
・コンジェスチョンチャージ
・コンパクトシティー
・事故回避特性・事故親和特性
・自動車アセスメント・先進安全自動車ASV・全自動運転車
・デマンド交通システム
・衝突安全・予防安全・リスクマネジメント
・ロードハンプ
・福祉車両

2014年8月22日

余暇・スポーツ


アウトライン:余暇・スポーツ

以下、解説 : 谷口 幸一)

第三世代」と称せられる定年退職後の世代の余暇は、
どのような広がりを見せるのであろうか。
生活従事時間と生理的時間を差し引いた一日の自由時間は、
60歳代で6時間台、70歳代で7時間台、80歳代で8時間台と言われる。
生活の自立と自律を支えるのに資する健康資源は、運動、栄養、休養である。


動く」とは、動物の本質である。
動けなくなったら。その生は終焉を迎える運命にある。
動けなくなってからも、生を続けられるのは、人間だけである。

自分の行きたい時に自由に行ける移動能力は、運動によって培われる。
人生の各世代の身体能力に見合った適度な運動が、
健康維持のために不可欠である。


老いの世代に見合った運動の条件、
運動習慣化に資する運動の仕方や体力維持向上に資する
運動プログラム等について検討して行く必要がある。


生きることとは、人と人とのつながりを維持すること、
そのためのノウハウを身に付けることが、
高齢者世代が改めて学習する課題となる。


個人の努力もさることながら、
家族や地域のサポートシステムや社会的インフラの整備も重要な条件となる。
そのための有効な施策を検討していく。



【キーワード】
・健康増進
・芸術文化
・ボランティア

2014年8月21日

シニアマーケット

拡大・変化・高齢者市場


人口構成比としての高齢世代が増加し、
あるいは他世代の人口が減少する中では、、
当然、シニア世代は益々大きな市場のターゲットとなっていくでしょう。

シニアマーケットは内需活性化のおおきな要素と言われてから久しく、
既に、シニア世代の消費特性に関わる調査やレポートは多く存在します。

しかし、人口数が多いからといって、
全ての高齢者を同一の市場ターゲットとしてアプローチをしても、
簡単には売上にはつながらず、シニアマーケットは難しいともいわれます。

単に年齢や健康状態だけでなく、
家族、子世代との同居の有無や
介護経験の有無などでも消費性向に違いがあるそうです。

「過去にこれほど高齢化が進んだ経験がないため、
企業に高齢者についてのデータがなく、
企業が現実に追いついていない」(日経トレンディネット)

高齢者が求めるものといって、
皆さんは何をイメージできますか。
高齢者は、不自由、ゆっくり、介護、魚、薄味、…、

商品を考える高齢者ではない企業の人たちも、
現実の高齢者と接してきたことがあまりにも少なく、
想像が難しい。

シニアマーケットを考えることは、
ありのままのシニア世代像を明らかにすることかもしれません。

(21世紀日本研究セミナーは、
 この領域の研究について、十分な情報を持っているとはいえません。
 特に、この領域に明るい方々の 参加・発表を待望しています)



アウトライン:シニアマーケット

(以下、解説 : 所 正文)

高齢者は健康、経済、キャリア、価値観等において個人差が大きいため、
シニアマーケット多様なミクロ市場の集合体である。
したがって、全体の市場は
「10%:80%:10%」(富裕:普通:要介護)に区分される。


シニアマーケットのおよそ80%を占めるとされるいわゆる「普通市場」について、
ニッセイ基礎研究所レポート
「高齢者市場開拓の視点~100兆円市場が求める商品サービスとは」では、
次の6点を指摘している(参考サイト)

(1)「不の解消ニーズ」市場
  老化に伴う身体上・生活上において生ずる様々な不便や不満を
  代替、補完する形で解消していく市場であり、
  具体的には、補聴器・杖・電動自転車・配食サービス・らくらくホン等がある。

(2)「健康ニーズ」市場
  自分の健康への投資意欲が高まりに注目した市場であり、
  最近は、健康カラオケ、健康マージャンといった
  健康と絡めた新業態も産まれている。

(3)「時間充実(消費)ニーズ」市場
  日々の自由な時間を活動や趣味を通して充実させることを支援する市場であり、
  具体的には、旅をサポートするナビ、生涯学習、
  家庭農園、軽登山関連グッズ等がある。

(4)「つながり関係ニーズ」市場
  老親の見守りサービス等の親孝行市場、
  友人との関係をサポートする同窓会支援等がある。

(5) 「長寿の生き方ニーズ」に応える市場
  人生90年時代に相応しい高齢期の暮らし方について、
  多面的なサポートを求める声が聞かれるが、
  単独企業でこうしたサービスを提供することは難しく、
  複数の様々な業態の企業が参加する形で開発・提供していくことが必要になる。

(6)「身体が弱っても楽しめるENJOYニーズ」に応える市場
  多くの人は70歳代後半から徐々に身体的な虚弱化が進むが、
  「身体が弱ってもこんなに楽しいことがある」ことを
  知ってもらう商品サービスの積極的な開発と市場への投入が待たれる。


個人消費のすでに4割を65歳以上高齢者が占め、
その規模は100兆円に達すると言われる。
人口減少で内需縮小が見込まれる中で、
シニア市場の掘り起こしに力を入れる生活関連企業が相次ぐ。

具体例は次の通り。
居酒屋チェーンの大庄は、東京都墨田区にサービス付き高齢者住宅を開設し、
高齢者世帯の生活全般に及ぶ支援サービスを展開する。

イオンは、徒歩圏内に立地する生鮮食品中心の小型スーパーを
すでに首都圏で運営しており、2013年度末までに500店まで増やす予定。

コンビニ業界では、セブン-イレブン・ジャパンが
単身向けの「1人前総菜」を拡充して2012年度は総菜の売り上げを7割伸ばし、
さらに日替わり弁当の宅配サービスも全国約1万店で手掛けている。

紙おむつのユニ・チャームは
12年度に大人用紙おむつの国内売上高が子供用を上回っているなど、
消費市場ではすでに構造変化が起きている(日経新聞2013.4.20)



【キーワード】
・高齢者の求める商品やサービス
・シニアビジネス
・マーケティング・消費者行動
・高齢者のライフスタイル     

2014年8月20日

エイジング教育・世代間交流活動



アウトライン:エイジング教育・世代間交流活動

(以下、解説 : 谷口 幸一)



発達とは、誕生から死に至るまでの連続的過程である。
その意味で「成長すること」と「老いること」とは、
発達の一過程である。

若い世代は、成長する現象に関心を示し、
老いるという現象に思いが至らない。
自己の成長の過程にすでに老化の過程が混在する事実を知らしめ、
若い世代から老いることの当事者意識を持たせるのが、
エイジング教育である。


学校教育では、
超高齢社会の日本の現実を、
子ども世代、若者世代に理解させるための教育内容が、
保健体育、家庭科、社会科、道徳、総合的学習の時間の教育内容に含まれているが、
必ずしもその教育成果は十分に現実生活に生かされていない。

教師と生徒だけの関係の中では、老いの教育は十分でなく、
そこに親世代や祖父母世代が介在することが、生きた知識となると思われる。
超高齢社会の担い手としての若い世代の意識と実践力を身に付けさせる
有効な施策を模索していく。



【キーワード】
・世代間交流活動
・教科別老化教育
・江戸しぐさ