2015年に入ってから高齢ドライバーに向けられる視線はより厳しさを増した感がある。認知症ドライバーによる新年早々の首都高逆走事故を受けて、道交法改正へ向けて舵が切られた。車は走る凶器であり、高齢者には早めに運転を断念してほしい。これが中年以下の人たちの大方の見方であろう。
このテーマに関してマスコミの関心も高い。高齢ドライバーの危険な運転行動を映像で示し、背景にある心身機能の低下と運転行動との関係を専門家に分析してもらう。都会で暮らす中年家族の不安な気持ちが紹介され、地方社会で暮らすお年寄りにとっても、運転免許を手放すと買い物にも病院へも行けなくなるといった厳しい生活の現実も紹介される。視聴者には、この現実にどう向かい合うべきかという重い課題が最後に突きつけられる。
デマンド交通システムの浸透、街づくりの方向としてのコンパクトシティー化など、運転断念後の生活に配慮した対策の方向性は、すでに打ち出されている。いずれも運転断念を前提とした対策の方向性である点が重要である。70歳代前半の運転免許保有率は、すでに男性で85%を突破し、女性も50%に迫っている。高齢ドライバーが激増している現状では、安全第一の観点から、高齢ドライバーの運転断念へ向けての法制化の動きはやむを得ない。そのため、高齢ドライバー研究の方向性としても、運転断念後の生活支援を社会全体で検討する方向へと徐々にシフトしてきている。
しかし、高齢ドライバーにとっても、自動車大国・日本にとっても、一度手に入れた便利な生活システムは、できればギリギリまで維持し続けたいという思いが根強い。そのため、高齢ドライバー問題が、事故リスクの高まりを根拠に、脱クルマ社会へ向けた動きへ一気に進むことに対して、危機感も見受けられる。その一つが、急速に展開する自動運転の技術開発である。2020年代後半には実用化も夢ではないハイスピードで進んでいると報道されている。
自動運転の目的は、渋滞解消や交通事故の予防などへの貢献が指摘されるが、高齢者や子ども、障害者など、自ら運転できない人を運ぶことにも大きなニーズが見出されている。21世紀中盤を前にして、交通社会では、従来の常識を覆す大変革が実現する可能性がある。後者の場合、街づくりやライフスタイルに密接に関わる問題であるため、単なる自動車の技術開発問題としてではなく、関係各方面の専門家の意見を聴取しながら開発を進めてほしいと思う。(所正文)