2015年10月21日

高齢ドライバーへの真のサポートとは何か


 2015年に入ってから高齢ドライバーに向けられる視線はより厳しさを増した感がある。認知症ドライバーによる新年早々の首都高逆走事故を受けて、道交法改正へ向けて舵が切られた。車は走る凶器であり、高齢者には早めに運転を断念してほしい。これが中年以下の人たちの大方の見方であろう。

このテーマに関してマスコミの関心も高い。高齢ドライバーの危険な運転行動を映像で示し、背景にある心身機能の低下と運転行動との関係を専門家に分析してもらう。都会で暮らす中年家族の不安な気持ちが紹介され、地方社会で暮らすお年寄りにとっても、運転免許を手放すと買い物にも病院へも行けなくなるといった厳しい生活の現実も紹介される。視聴者には、この現実にどう向かい合うべきかという重い課題が最後に突きつけられる。

デマンド交通システムの浸透、街づくりの方向としてのコンパクトシティー化など、運転断念後の生活に配慮した対策の方向性は、すでに打ち出されている。いずれも運転断念を前提とした対策の方向性である点が重要である。70歳代前半の運転免許保有率は、すでに男性で85%を突破し、女性も50%に迫っている。高齢ドライバーが激増している現状では、安全第一の観点から、高齢ドライバーの運転断念へ向けての法制化の動きはやむを得ない。そのため、高齢ドライバー研究の方向性としても、運転断念後の生活支援を社会全体で検討する方向へと徐々にシフトしてきている。

しかし、高齢ドライバーにとっても、自動車大国・日本にとっても、一度手に入れた便利な生活システムは、できればギリギリまで維持し続けたいという思いが根強い。そのため、高齢ドライバー問題が、事故リスクの高まりを根拠に、脱クルマ社会へ向けた動きへ一気に進むことに対して、危機感も見受けられる。その一つが、急速に展開する自動運転の技術開発である。2020年代後半には実用化も夢ではないハイスピードで進んでいると報道されている。

自動運転の目的は、渋滞解消や交通事故の予防などへの貢献が指摘されるが、高齢者や子ども、障害者など、自ら運転できない人を運ぶことにも大きなニーズが見出されている。21世紀中盤を前にして、交通社会では、従来の常識を覆す大変革が実現する可能性がある。後者の場合、街づくりやライフスタイルに密接に関わる問題であるため、単なる自動車の技術開発問題としてではなく、関係各方面の専門家の意見を聴取しながら開発を進めてほしいと思う。(所正文)

メンタルヘルス対策は企業の利益にもなる



 メンタルヘルス問題は、企業にとって大きな課題である。従業員が心身に不調をきたして休職や退職をしてしまったら、企業にとって打撃であるだけでなく、社会にとっても損失である。そのため、近年では多くの企業がメンタルヘルス対策に力を入れているが、思うように効果が上がらないことも多いようである。
 記事中では日本を代表するIT企業のメンタルヘルス対策が紹介されているが、IT業界は特にメンタルヘルス問題が多いことで知られている。そのような業界にあって、記事に登場する2社は、社員一人あたりの執務スペースの拡大、有給完全消化、残業削減、業務の見直し・負荷分散、eラーニングの導入などの対策を行い、社員の帰属意識の向上、休職者の減少といった成果を上げている。これが生産性の向上につながり、企業の業績にも好影響を与えていくだろう。
 メンタルヘルス対策は、決して企業の利益を犠牲にして社員を守るためのものではない。むしろ、企業の利益のために必要なものなのである。(鈴木聡志)

2015年10月2日

運動習慣は、転倒回数を減らし、またうつ状態を軽減するか?

 地域の老人クラブ会員を調査対象として、日々の運動習慣の程度と転倒回数とうつ傾向について調査した。本調査は、同一の対象者に約1年の間をおいて2回実施された。初年度(2012年度)の調査対象者の内訳は、女性で783名(49.9%)、男性785/名(50.1%) の合計1,568名であった。年齢区分別にみると、女性で60歳代183名(23.3%)、70歳代445名(56.8%)、80歳代155名(19.8%)であった。他方、男性では60歳代166名(21.1%)、70歳代485名(61.8%)、80歳代134名(17.1%)であった。このように、対象者の男女内訳は、ほぼ半々の割合であり、また両性ともに70歳代が全体の約6割であった。対象者の母体は、神奈川県政令指定都市S市老人クラブ連合会の全面的協力により、傘下の全286単位クラブから各6名(男女半々)ずつの会員に調査票を配布した。結果、配票数1,716票のうち、1,568票が郵送と個別の持参の方法で回収された。(回収率91.4%)。その調査の結果の一部の概要を紹介する。

 運動習慣と転倒

 継続的に定期的な運動習慣を持っている「TTMのステージ:実行期・維持期)の人で、過去1年間に3回以上転倒した人の割合は、男性で9.6%、女性で7%であった。一方、運動を行っていない「 TTMのステージ:関心期・無関心期」の人で、過去1年間に3回以上の転倒者が男性で19%、女性で18%であった。このように運動を定期的に実施している人たちと実施していない人たちとでは、年間に3回以上転倒する頻度が2倍以上の差があった。 また、調査の初年度に、過去1年間に転倒しなかった(転倒回数・0回)人の中で、調査2年目(2013年度)においても転倒回数・0回の人の割合は、男女ともに年代があがるにつれ、その割合は減少していた。特に80歳以上では、男性で5割、女性で約6割に減少していた。高齢になるほど、普段の生活の中で、転びやすくなっていることが、これらの結果に表れている。健康日本21に関する国の調査結果を見ると、要介護状態になる原因のなかでも、その約1割が「骨折・転倒」である。日頃の生活で、足腰を鍛える身体活動に心掛けることが必要である。

 運動習慣とうつ

 次に運動習慣の程度と「うつ傾向」との関連を見た結果、運動習慣の「実行期・維持期」にある人たちの中で「うつ傾向」のある者の割合は、男性で18.1%、女性で19.9%であったが、他方、運動に「関心期・無関心期」にある人たちの中で「うつ傾向」のある者の割合は男性で32.9%、女性で43.8%であり、両者には男女ともに約2倍の差がみられた。うつ状態を軽減する生活術として、身体活動を活発におこなうことは効果があるようだ。

(出典:平成23~25年度科学研究費助成事業:文部科学省学術研究助成基金・基盤研究C(課題番号:23500701)―生活場面における運動に関するアンケート調査報告書[東海大学健康科学部・谷口 幸一、文化学園大学・安永明智]