2008年にワタミグループの居酒屋「和民」で、女性社員が入社2か月で過労自殺し、遺族が損害賠償を求めていた裁判で、創業者で現在は参議院議員を務めている渡辺美樹氏らが約1億3千万円を支払うことで和解が成立した。渡辺氏は自身の法的責任を認めて謝罪したほか、ワタミは労働時間を正確に記録し、未払いの残業代を支払うなど、労働環境の改善策も和解内容に含まれているという。
そもそも、なぜこのような悲劇が起きてしまったのか。渡辺氏はワタミを一代で大企業に育て上げ、食品宅配や介護事業にも進出するなど、優れた経営者であることは間違いない。その一方で、社員に過酷な労働を科すことでも知られており、「24時間365日死ぬまで働け」とまで言われていたという。ワタミはブラック企業という言葉が普及し始めた当初からそのように認識されており、元祖ブラック企業ともいえる存在であった。
渡辺氏は自身が過酷な労働を経て成功したという経験から、人間はがむしゃらに働くことで幸せになれると信じ、それを社員にも押し付けていたのではないだろうか。しかし、すべての人間がそのような労働に耐えられるわけではない。自分に出来ることは人にも出来るはずだという思い込みが、今回の出来事につながったのではないか。
逆に、経営者が社員のことを大切に思っているならば、その会社の労働環境も良いものとなるだろう。しかし、労働環境が経営者によって左右されるというのでは、リスクが大きすぎる。労働環境が経営者の影響を受けすぎないように法律などの環境を整えていくことが必要である。(鈴木聡志)