2016年1月20日

バス転落事故 運転手の待遇に問題はなかったか


 2016115日、痛ましい事故が起きてしまった。長野県軽井沢町で、スキーツアーのバスが道路から転落し、15人が死亡するという大惨事となった。
 この事故の原因として考えられるものとしては、車体の不具合、運転ミス、運転手の体調異変などが挙げられるが、現在も調査中であり、詳細は不明である。気になったのは、運転手が65歳と高齢で、しかも大型バスの運転に不慣れだったと伝えられていることである。
 なぜこのような人物に運転させざるを得なかったのか。近年、外国人観光客の急増などで、バス業界は過当競争となっており、バスの運転手が不足し、運転手にかかる負担が増加して労働環境が悪化し、ますます人が集まりにくい状況になっている。そのために、多少運転スキルに難がある人物でも採用せざるを得なかったのだろう。
 このような事故が起きるたびに、国土交通省は規制を強化し、今回の事故でも、ツアー会社やバス会社に対して監査に入ったり、他の会社に対して抜き打ち検査などを行っている。しかし、これでは対症療法的であるばかりか、運転手たちをかえって萎縮させてしまうことになりかねない。根本的な解決のためには、運転手の待遇改善が必要である。それは給与面だけでなく、長時間勤務などの負担を軽減することも含まれる。それによって、質の高い運転手も確保できるだろう。
 バスの運転手と同様の人手不足の問題は、介護士や保育士でも起きている。これらが不足しているのも、低賃金を含めた待遇の悪さが原因である。また、バス運転手も含めたこれらの職業は、誰でも簡単にできる仕事だと誤解されているかもしれない。例えば、以前に大阪市営バスの運転手の年収が高すぎるとして批判を浴び、削減されたことがあった。もしかすると我々の社会は、簡単で誰でもできる仕事なら低待遇でも構わない、と考えてはいないだろうか。そのような職業差別的な意識が、今回の事故のみならず、様々な社会的問題を引き起こしてはいないだろうか。
 バスの運転手は決して誰にでもできる仕事ではなく、高度な技術が必要とされ、さらには多くの人命を預かる責任重大な仕事である。そのような仕事に敬意を表し、待遇改善を図っていくことが、最大の安全対策である。(鈴木聡志)