2015年7月21日

市民後見人とは、どんな人?


 親族が、その親の財産を勝手に処分したとか、弁護士が後見人として契約を交わしている依頼人(被後見人)の財産を不当に処分したとか、最近のニース報道でも良く耳にする。その背景には、認知症や知的・精神的障害などで、財産管理や身上の監護が自力で行えなくなった人の利益・尊厳を守るために、成年後見制度(2000.4月施行)が位置づいている。その法的根拠として、老人福祉法第32条によって、市町村長は「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」について家庭裁判所に対し後見審判の請求をすることができるとされている。同様の規定は知的障害者福祉法や精神保健及び精神障害者福祉に関する法律にもある。

この市町村長申立てのさらなる活用を求めて、従来からの親族後見人や専門職後見人のみで行われている後見人活動の不備を補うために、2012年に老人福祉法第32条の2が創設され、市町村は、後見、保佐及び補助の業務を適正に行うことができる人材の育成及び活用を図るために必要な措置を講ずるよう努めるものとすることになった。研修の実施、後見等の業務を適正に行うことができる者の家庭裁判所への推薦、研修を修了した者を登録する名簿の作成や市町村長が推薦した後見人等を支援することなどである。市町村の責任において後見実施機関を設置し、市民後見人を養成・活用・支援する仕組みを確立していくこととなった。地域で信頼される市民後見人の育成が時代の急務になっている(地域ケア政策ネットワーク代表理事・大森彌,2013)

筆者がその会員として参画している「非営利活動団体・成年後見さがみはら市民センター」(同代表・千葉芳弘、2015)でも、市民後見人を志望する市民を対象にした市主催の養成研修に協力する体制を整えるべく、日々、勉強を続けている。(谷口)

おじいちゃん、おばあちゃん、すごいじゃん! 


2015年6月のコラムでも紹介した「東海大学健康クラブ・市民健康スポーツ大学」(http://www.ihs.u-tokai.ac.jp/kenkouclub/)の活動に参加した学生の感想文には、その活動に参加している中高年世代に対する新鮮な驚きとその活動の継続が若者世代にとっても意義深いことが述べられている。その感想文の幾つかを紹介してみる。

 学生Aさん:楽しくエクササイズしていた。地域との交流は、楽しくやっていくことが大切だ。地域とのコミュニケーションが取れる大切な場であると感じた。地域の大人の人達と話をする機会が出来て良かった。健康講座として骨の働き、とくに50歳台を過ぎた女性の骨粗鬆症の話、筋肉を付けるためには、運動前にチーズなどのタンパク質を採ることの重要性などを知った。市民の人達と二人一組になって行ったエクササイズも楽しかった。

学生Bさん:予想した以上に市民会員の参加が多かった。参加者の方が今までの健康データをファイルして持参されていることに驚いた。自分の健康についてのこだわりの強さを感じて驚かされた。健康講義では、骨の知識や精神面の健康の大切さを知った。体力づくりトレーニングでは、ゴムチューブを使ったエクササイズで、普段使わない筋肉を刺激して筋肉量の増加を目指す運動を一緒に行ったが、自分の筋力の無さに気付かされた。市民の健康をサポートする活動に参加して知識のみならず、色々と視野を広げる契機になった。

学生Cさん:平成27年度の第一回体力健康測定に参加した。体力測定に参加して、自分の体力の現状を知り、体力のなさを実感した。市民会員のおじいちゃんの測定結果が私より良かったので、自分の運動不足を感じた。東海大学健康クラブは、総合型地域スポーツクラブとして、大学とその所在地の自治体が連携して運営している。教育と研究の場である大学で、市民の健康データを集めて分析して、会員の方に結果をフィードバックしていくことで、地域の人との交流を深める活動は、超高齢社会の日本では、ますます広げていく必要があると思った。

 以上、学生たちの感想から、高齢者世代に対する思い込み(体力が自分たちより低い。参加者は限定的で少ない、健康への無関心など)が必ずしも正しくないこと、社会活動や健康維持への意欲が高いことに改めて気づきを深めている様子がうかがえる。活動意欲のある地域の高齢者が大学の場で、学生と共に交流することの意義を学生達も実感しつつある。

とくに身体活動を介した老若世代間の活動は、自然と親しくなれる有効な手立てと思われる。(谷口)

わが国の街づくりの考え方


車は走る凶器であり、認知症を患った高齢ドライバー絡みの事故が増えているため、高齢者には早めに運転を断念してほしい。これが中年以下の人たちの大方の見方であろう。一方、高齢ドライバー本人はできるだけ長く運転を続けたいと考えている。運転免許を手放すと生活が不便になる、とりわけ通院と買い物に支障が出る、生活全般が制約され人生における自立が奪われるなどマイナス面が多いからだ。

両者の間には大きな溝がある。この根源には、マイカー社会を前提として構築された近年の「わが国の街づくりの考え方」が関わっている。

マイカー所有率が高まってきた1980年代後半以降、地方社会において、住民生活の中核となる大型店舗、病院、官公庁などがどんどん郊外へ移転した。地方社会といえども街中心部においては十分な駐車場スペースが確保できないからである。これによって、高齢者も車を運転しないと病院へも買い物へも行けなくなり、運転免許に執着せざるを得ない。

こうした車社会を前提とした街づくりに対する反省から、コンパクトシティー*に対する関心がにわかに高まり、北陸の富山市では成功している。これは街中心部に生活空間を再構築し、移動は公共交通機関によって行うものである。新たなコミュニティーづくりとしても効果的であり、高齢ドライバーの交通事故対策のみならず、超高齢社会の多くの問題に対処するための優れた街づくりの方法である。ただし、郊外から街中心部へ高齢者を強制転居させることはできず、市民社会全体にこのコンセプトの真意が浸透するにはまだまだ時間がかかりそうであり、当面はデマンド交通システム*で対応することになると思われる。(所正文)

*:「部門4交通・生活」のキーワードで紹介しており、参照されたし

「ゆう活」で長時間労働は是正されるのか?


 政府はこの夏、国家公務員を対象に、「ゆう活」という制度をスタートさせた。これは、始業時間を早めることで、仕事を早く終わらせ、夕方からプライベートな時間を楽しむことで、充実した生活を送ろうというものである。「ゆう活」の「ゆう」とは、「焼け時に」「々とした時間が生まれる」「人と会える」「ぶ時間が増える」「家族で過ごすしい時間が増える」「新しい人・モノ・こととばれる」という意味が込められているそうである。スキージャンプの葛西紀明選手らを起用したTVCMを作成するなど、かなりの力を入れている。政府はこの制度を地方公務員や民間企業にも広げ、長時間労働の是正につなげていきたいとしている。

 果たして本当にこの「ゆう活」で長時間労働は是正されるのであろうか。まず、始業時間を早めることにより、単純にその分だけ労働時間は長くなる。そして、始業時間を早めた分だけ定時より早く退社できればよいが、それができずに結局通常の定時以降まで仕事をすることになったら、さらに労働時間は長くなり、本末転倒である。また、仕事の量は減らさずに定時以前退社のみを強要すれば、仕事を家に持ち帰ることになり、その分の残業代は支払われない、という事態も考えられる。始業時間を早めることにより、睡眠時間が短くなり、健康への悪影響も懸念される。

 長時間労働是正のためには、業務の効率化、一人あたりの仕事量の低減、帰りやすい雰囲気を作るなど、ほかの施策も行うべきである。
(鈴木聡志)

2015年7月6日

性格特性や運動に関する自己効力感は、運動への動機づけを高めるか?

2011-13年度の文部科学省の科学研究助成金を得て、
居住地域の老人クラブに加入されている一般高齢者を調査対象として、
彼らの日々の身体活動(生活運動、運動・スポーツを含む)に及ぼす
影響要因を同定する研究を行った。
調査の分析対象となった高齢者は、総計876人(60-92歳)であった。

その結果、
①外向性や誠実性という2つの性格特性は、
年齢や性別や身体的健康の影響を取り除いた場合でも、
身体活動レベを高める要因である。

②外向性、開放性、協調性、誠実性、情緒安定性という
主要な5つの性格特性が、
運動に関する自己効力感を高めている。

③外向性という性格特性ならびに運動に関する自己効力感は、
身体活動のレベルに直接的な影響を与える最も重要な予測因子である。

この調査結果を分かりやすく説明すると、
一般高齢者の日々の運動の習慣度を上げるためには、
個人の性格特性の中でも、
とくに外向性(興味・関心が、自分以外の他人や出来事に多く向いている傾向)が高いことや、
誠実性(物事に取り組む態度・姿勢の真剣さ)の高い人々を、
優先的に教育指導することや、
また運動の効用に関する知識教育や運動の楽しさを実感させるような
実地指導をすることで、
運動習慣者の割合を増やすことが可能となることを示している。
退職高齢者の運動指導を行う際の参考としていただきたい。(谷口)。

(資料出典:Yasunaga,A.and K.Yaguch: Personality traits,self-efficacy for exercise,and exercise levels in older Japanese adults.The Japanese Journal of Health Psychology.Vol.27,.No.1,1-11,2014)

2015年7月1日

キーワード:認知症サポーター

認知症について学ぶ6090 分程度の短い講座「認知症サポーター養成講座」を
受講した人の名称で、
平成17年度より各地で講座が開催されており、
平成27331日時点で、全国に約600万人の認知症サポーターがいる。

地域社会の中には認知症高齢者が多く暮らしており、
その予備軍も含め今後も増加していくことは確実である。
認知症高齢者が暮らしやすい地域を作るためには、
専門職・専門機関の力だけでは不十分で、
一般の地域住民の理解、見守りが不可欠と考えられる。

認知症サポーターは、仕事として何かをする人ではなく、
講座を通じて認知症を理解し、
周りにいる認知症の方やその人を取り巻く家族の良き理解者として、
できる範囲で応援をするボランティアとされている。
講座は、都道府県や市町村の高齢者支援を担当する課などで受付を行っており、
キャラバンメイト呼ばれる講師が派遣される。
自治体や地域のほか、企業や学校などでも多く講座が開催され、
子どもから高齢者まで幅広い年代が受講している。(坂井)

サポーターには「目印」として、オレンジリング」が渡される。