2015年7月21日

わが国の街づくりの考え方


車は走る凶器であり、認知症を患った高齢ドライバー絡みの事故が増えているため、高齢者には早めに運転を断念してほしい。これが中年以下の人たちの大方の見方であろう。一方、高齢ドライバー本人はできるだけ長く運転を続けたいと考えている。運転免許を手放すと生活が不便になる、とりわけ通院と買い物に支障が出る、生活全般が制約され人生における自立が奪われるなどマイナス面が多いからだ。

両者の間には大きな溝がある。この根源には、マイカー社会を前提として構築された近年の「わが国の街づくりの考え方」が関わっている。

マイカー所有率が高まってきた1980年代後半以降、地方社会において、住民生活の中核となる大型店舗、病院、官公庁などがどんどん郊外へ移転した。地方社会といえども街中心部においては十分な駐車場スペースが確保できないからである。これによって、高齢者も車を運転しないと病院へも買い物へも行けなくなり、運転免許に執着せざるを得ない。

こうした車社会を前提とした街づくりに対する反省から、コンパクトシティー*に対する関心がにわかに高まり、北陸の富山市では成功している。これは街中心部に生活空間を再構築し、移動は公共交通機関によって行うものである。新たなコミュニティーづくりとしても効果的であり、高齢ドライバーの交通事故対策のみならず、超高齢社会の多くの問題に対処するための優れた街づくりの方法である。ただし、郊外から街中心部へ高齢者を強制転居させることはできず、市民社会全体にこのコンセプトの真意が浸透するにはまだまだ時間がかかりそうであり、当面はデマンド交通システム*で対応することになると思われる。(所正文)

*:「部門4交通・生活」のキーワードで紹介しており、参照されたし