2015年8月21日

交通分野のソーシャルビジネス


我々の生活の隅々に至るまでコンピュータが入り込み、今やお年寄りまでもがパソコンや携帯電話を使う時代である。時代変化の動きは早い。こうしたことを受けて、米国の研究者は「2011年度に米国の小学校に入学した子どもの65%は、大学卒業時に今は存在しない職業に就くだろう」と予測する。

IT革命の進行によって、今後産業界がどのように変化しても、我々生活者が、食料、電化製品、その他生活必需品を調達したいときには、自ら店に出向いて購入するか、あるいは配達してもらうかのいずれかになるはずである。この点は変わりようがない。

超高齢化が進行するわが国地方社会では、買い物に行けない中で、一人暮らしを続けるお年寄りが、すでに数多く存在する。我々は、こうした現実に目を向けなければならない。

 配達時に高齢者の孤独死に遭遇、一人暮らしお年寄りの見守りと生活支援ができないか、思いをめぐらした女性セールスドライバー(以下SD)がいた。2008年春の岩手県盛岡市での出来事である。これがきっかけとなり、ヤマト運輸の「まごころ宅急便」が誕生した。

 一人暮らしお年寄りの自宅に、予め地元スーパーの商品カタログを配布する。それを元にお年寄りは、地元の社会福祉協議会(以下社協)に対して電話で買い物の仲介依頼を行う。社協はスーパーで商品をピックアップし、ヤマト運輸がお年寄り宅に商品を届ける。ヤマトSDは、そこで聞き取った見守り情報シートを社協に送り、変調があれば社協が対応する。この仕組みは、発案者である女性SDの地元である岩手から始まり、兵庫、高知、島根などへと広がり、採用を検討する自治体が次々に出てきている。ヤマト運輸では会社の収益事業の柱として「プロジェクトG」と呼ばれる全社戦略を展開し始めた。

 ビジネスの手法を活用して、社会や地域の課題を解決していくことは、ソーシャルビジネスと呼ばれ、今や大きな注目を集める。これまで社会貢献事業は、行政の仕事と考えられ、税金を用いて行うことが当然とされた。しかし、企業の収益事業として実現したことは、まさに画期的である。

 日本全国どの地域で展開しても、すでに宅急便のネットワークは整備されているため、新たな投資は必要なく、採算がとれる見通しは高いとされる。斬新なアイディアに基づく事業拡大が、今後も期待される。(所正文)

若者の3割が「できれば働きたくない」



 電通総研は、20153月、「若者×働く」調査を実施した。これは、週に3日以上働いている1829歳の男女3,000名を対象とし、若者の現在の働き方、働く目的、働くことに対する意識などを明らかにしようというものである。

 この調査では、若者の3割(女性は4割)が非正規雇用である、5割が給料やボーナスの低さに不満を感じている、7割が働く目的は安定した収入のためとしている、などのデータが明らかになっている。なかでも注目を集めたのが、働くことの意識について、4割が「働くことは当たり前だと思う」と回答した一方で、3割が「できれば働きたくない」と回答していたことである。

 できれば働きたくないと考えている若者が3割に上ることについてはどのように捉えればよいのだろうか。まず、調査サンプルが「週に3日以上働いている者」であるため、週2日以下または働いていない者も含めれば変動する可能性がある。また、日本社会においては働くことは当然であるという風潮があるため、働きたくないとは回答しづらく、潜在的に働きたくないと思っている人はもっと多い可能性もある。一方、この調査では他の年代との比較がないため、他の年代と比べて多いかどうかはわからない。

 いずれにしても、この調査データをもって若者を叩くのは早計である。働きたくないと思うのは、労働環境など社会のほうにも問題があるからである。大事なことは、世の中には一定数の働きたくないと思う人がいることを認め、そのような人でも快適に働けるような社会にしていくことではないだろうか。(鈴木聡志)

語らいやコーヒーを楽しむ


認知症の診断を受けてしまったら、人との関わりはどのようになってしまうだろうか。
たとえ、身の回りの支援が介護サービスによって充足されるとしても、
私たちの生活は衣食住だけでなり立っているわけはない。
病気のことを誰にも明かせない、友人と疎遠になってしまい、
家に閉じこもってしまう人もいる。
デイサービスを利用すれば、人間関係は満たされるだろうか。
例えば、友人と一緒に過ごしたい、趣味の合う人、自分と同じ困難を抱えている人、
その不安を共有できる人と話をしたいという思いは誰にでもあるのではないか。

最近、認知症カフェという言葉を聞くようになった。
国を挙げて認知症問題に取り組んでいるオランダで、アルツハイマーカフェとして
認知症の人や家族が語ることのできる場、社会参画の場として普及し、
日本でも始められるようになったものである。
オレンジカフェ、オレンジサロンなどの名称がつかわれていることもある。

開催場所も内容も様々であるが、「カフェ」という名前が示すとおりに、
治療や介護の中にではなく、普段の生活上にあることが大きな特徴であると思う。
介護保険のサービスではないので要介護認定を受けている必要もなく、
また家族や友人、本人を心配している近所の人々も参加対象者となり得るため、
本人にとっての繋がりづくりだけでなく、地域住民の理解を深め、
認知症になっても暮らしやすい地域作りにとっても意味があると考えられる。

まだ始まったばかりの活動であるが、開催方法の工夫やその効果についての
検証や情報交換が進んでいくことが期待される。
(坂井圭介)

退職シニア層を中心とした地域住民と大学生との多世代交流活動―地域連携型教育の意義とは何か?



何かを学ぶだけなら、カルチャースクールや近所の公民館でも良いが、「大学」というキャンパスの雰囲気が、退職シニア層に学習意欲や参加意欲を駆り立てるのだ。人生経験を重ね、仕事で培った技能・知識と社会的問題解決能力を蓄えた知恵に満ちたシニア層が、学生を前にして”教壇”に立つとき、しばらく心の奥に沈み込んでいた生の息吹を感じ、生きがいに繋がるのだ。但し、その時に必要な訓練があると言われる。教え方の研修が必要ということである―自分の過去の自慢話や武勇伝は嫌がられる。学生が好むのは、ディスカッション形式の講義である。議論を通じて世代を超えた交流がお互いの心地よい刺激となる。

 筆者は、大学が全学的に推進する地域連携教育の一環として、学部の学生と地域住民(退職シニア世代)との「人生を考えるワークショップ」(2コマ)を実践した。テーマは、「人生と仕事」、「人生の目標・ビジョンと夢」であった。まず学生が個別にこのテーマについて自分の考えや疑問を発表し、それに対してシニアが、逆に質問したりコメントを加える形式で進行した。大学での学びが今後の仕事や人生目標・夢にどのように関わるかを考えながら、学ぶことの大切さを実感していた。その後に行った野外での合同のレクリエーション活動で、お互いが友達になった。笑いに満ちていた。
―このような世代間交流を通じて、退職シニアもさらに元気になってきた。退職シニアは、フルに働く必要はない。若い世代とふれ合い、有難うと言われる実感が重要である。全くの無償ボランティアではなく、僅かでも謝礼を貰えるような有償のプチ就労が良く、それも若年層をサポートする中で、自己有能感が高まるような”仕事”が良いようだ。そのような活動の格好の場は、大学である(谷口)


健康心理学会2015年度の自主シンポジウム―「健康に寄与する実践活動を考える」~人と人の繋がりとエンパワメント~


企画者:押山千秋[千葉大学 子どものこころの発達教育研究センター];
谷口幸一[東海大学 健康科学部]
話題提供者1 谷口幸一(東海大学 健康科学部)
話題提供者2 押山千秋[千葉大学 子どものこころの発達教育研究センター]
話題提供者3 野澤孝司 [目白大学]
指定討論者:木村裕 [早稲田大学]
(28回健康心理学会(平成2796:13:00-15:00 桜美林大学町田キャンパス)

家族、地域、職場、学校など、様々な関係で構成されている文脈の中で、私たちは今を生きている。一人一人のwell-beingを考え、より高いQOLを担保する可能性の一つとして、地域でのサポートが注目されている。あらゆる人々を含めた社会的なネットワークを地域で構築し、みんなでともに生きていこうという発想である。前回(健康心理学会27回大会・琉球大学)、我々はその社会的なネットワークの根幹をなす「人と人の繋がり」がもたらす健康について、「超高齢社会とソーシャル・キャピタル」をテーマに、人と人を繋ぐ活動について、主に音楽を使った実践例を中心に議論した(押山・谷口・師井・小杉・木村・野澤,2014)。社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを表す概念である「ソーシャル・キャピタル(Social capital:社会関係資本)」が蓄積された社会では、相互の信頼や協力が得られるため、他人への警戒が少なく、治安・経済・教育・健康・幸福感などによい影響があり、社会の効率性が高まることに結びつくとされている。

本シンポジウムでは、今回の大会のメインテーマにも繋がる「エンパワメント」を生み出す実践活動について、「運動」「音楽」「笑い」を使った3つの身体活動を伴う実践活動を紹介する。企画者の谷口から、自身がその運営に携わってきた大学と自治体との連携による中高齢者を対象とした総合型地域スポーツクラブ「T大学市民健康スポーツ大学」の実践活動について、その継続性に関わる運営面の課題や市民参加者・学生に及ぼす効果について話題提供する。もう一人の企画者の押山氏から、子どもを対象にした「音楽」を使った実践活動を、実演による体験なども交えながら話題提供する。最後に、「笑いヨガ」(Laughter Yoga)の実践的研究者である目白大学の野澤孝司氏に、最近普及し始めている「笑いヨガ」による健康増進活動の理論と実践について、話題提供していただく。それぞれの実践活動がどのような形で人々をエンパワメントし、それがソーシャル・キャピタルの蓄積にどのように寄与しているか、また、健康との関連について議論したいと考える。本シンポジウムでは、音楽、笑いヨガの実践を挟みながら、楽しい学びのひと時としたい。読者の参加を期待する(谷口)