2015年の70歳代前半の免許保有率は男性87%、女性49%と高齢ドライバーは激増し続けている。そして2020年になると男性は95%に達し、皆免許状態となる。女性も67%に達する。さらに2030年には男性は、皆免許状態を維持し続け、女性も87%まで上昇する。今後の日本社会は、高齢者の皆免許時代が目前に迫っていると言える。
日本は先進国で唯一、75歳以上の運転免許保有者に対して、免許更新の際に認知症の簡易検査を法律で義務付けており、2015年6月にはその取扱いをより厳しくする法改正も行われた。しかし、現在実施されている簡易検査はアルツハイマー型認知症のみを発見する検査であり、それ以外のタイプの認知症には適用されない限界をもつ。認知症全体の3分の1が網の目を潜り抜けてしまう検査は当初より疑問視されていたが、高齢ドライバーが激増し、皆免許状態に近づくと、網の目を潜り抜ける実人数も激増することになる。さらに、最近では認知症以外の病気による運転に不適格な事例が報告されている。昨年の宮崎市でのてんかん発作が原因とみられる大事故などはその一例と言える。今後は、運転に不適格な病気をもつ高齢ドライバーが続々と出現する可能性がある。
短時間で行われる高齢者講習、あるいは免許更新時に、新たな医学適性検査を導入することが可能なのかどうか疑問がわく。精度の高い検査が実施できるとは思えない。
こうした現状を受けての打開策であるが、免許取得基準、および免許更新基準を高めることの必要性を指摘したい。これは、一定年齢以上のドライバー(例えば、高齢者講習受講対象者)に対して基準を強化するのではなく、全ドライバーに対して強化することを意図している。走る凶器にもなる自動車を操る全ドライバーに対して、厳しい条件を課すことにより、結果的に高齢ドライバーは、運転免許自主返納を選択すると思われる。そして、その際には、メンタル面でのケアを忘れてはならない。
わが国は車社会への移行が1970年前後であり、先進国の中では最も遅いため、他国に比べて交通社会が自動車優先主義に偏っている。歩行者、自転車、公共交通機関、自動車は、交通参加者として対等であるという考え方を交通政策の根幹に据える必要がある。交通政策の転換を進めることにより、公共交通機関の利用が進み、街づくりや社会の仕組みに変化が現れることが期待される。こうした積み重ねによって、21世紀の中盤には脱クルマ社会が徐々に実現していくと見られる。(所正文)