2016年2月20日

公認心理師の国家資格化の課題

 最近(2015.9)、心理士が「公認心理師」という国家資格となる法律が制定されました。ここ数年のうちに国家試験が始まるでしょうが、必ずしもその資格者の受け皿が社会に用意されているとは言えません。私が日頃から有力な心理士の職域と思っているのは、超高齢社会の地域包括ケアシステムに位置づく利用者家族を取り囲む医療施設・介護施設・行政機関・住民活動と連携できる心理士です。




< NHK総合テレビの解説番組から引用,2015 >
 

介護老人福祉施設(特別養護老人ホームなど)の利用者3人に一人の介護士配置が法律での規準ですが、心理士の配置はゼロです。利用者もさることながら、そこで働く専門スタッフや要介護度のついた利用者の家族の心のケアは、法的には放置されたままです。法律に公認心理師が位置づけば、数千人から万単位の心理士が専門職として働けることになりますね。心は、形にして見えないだけに、政策に反映されにくいですが、人口4人に一人が高齢者の時代、10年後は高齢者の5人に一人が認知症となり、そのケアが必要になります。実験心理学、神経心理学、臨床心理学、社会心理学などの研究法やカウンセリングの諸技法を高齢社会に生かしてみませんか。いよいよ心理学の出番です。
子どもの問題に限らず、高齢者世代も老いゆく故の生活課題を多く抱えていて、それをサポートしてくれる心の専門家が施設・病院・地域に根づくことが先決ですね。そのようなニーズはあるのに、政策面で後回しにされているのは、今後どのような社会にしていくべきかの価値観がそれぞれの立場で異なるからだと思います。政治家をはじめとする政策立案に関わる人たちの地域社会の在り方に対する価値観の転換を計らねば、事前の政策転換は期待できないと‥。地域や家族に起こっている個々人の生活課題が、真にひっ迫して個人の力だけでは解決の路を絶たれるまでは。ささやかな教育活動と草の根の実践だけでは、もはや追いつかないところに来ていると思うのですが
 公認心理師が、国家資格になって、免許皆伝となったとしても、社会で有為な人材として認められるかどうかは、今後のあり方にかかっています。まずは、どのような人がどのような試験問題を作るかです。福祉や医療問題にも精通している心理士でなければ、限定的な資格で終わってしまいます。超高齢社会に求められる心理士とは、どんな要件を備えた心理士でしょうか。
 
  介護・医療問題に対応できる実践力を有した心理士であること―施設・病院・地域の介護保険制度の利用者とその家族のストレスケアに対応できる知識と対処能力を備えていること。
  年金・医療・介護の社会保障制度とその運用にも一定の知識を有し、各分野の専門家につなげられる助言ができること。
  各世代のこころのケアを第一義とする資格ですから、主・副の専門分野はあっても心理学の全般的な分野の知識と活用法に通じていること-心理学の基礎分野(領域: 知覚・生涯発達・人格・社会・脳神経など)、臨床分野(領域: 心理・精神療法、人格検査、教育、社会福祉など)、コミュニティ分野(領域: 対人援助の方法論と技法、チームケアの能力など)の知識と技量を有していること。
 
 公認心理師も、その試験範囲が定められなければ、試験委員も選定できない訳ですが、上記の①と②と③に関わる学会から、試験委員を均等に選定するのが、これらの分野と領域をカバーする最善の方法かと思います。書籍から抜け出し、行動力を備えた心理士が求められていることは誰しも認める要件であると思いますね。読者の皆さんは、どのように考えますか(第二分野: 教育 谷口)