2015年9月28日

施設に入所することを、親不孝と考える割合に、両国で10倍以上の差異!


『ちょっと意外な結果かも。関東圏の大学生は、5割強が高齢者と交流したいと考え、6割強が親孝行は話し相手になることと回答―――。こんな実態が東海大のグループが実施したアンケート調査で分かった。』」この見出し文はOVO(オーヴォ)が敬老の日に先駆けて9月13日に配信した記事である。http://ovo.kyodo.co.jp/ch/mame/a-625849

  調査は、同大学健康科学部社会福祉学科の谷口幸一教授らが、関東圏の大学に在学する3,4年生1064人(男子368人、女子696人)を対象に親の扶養意識と高齢社会に対する関心度、老いのイメージなどについてアンケートした。」(原文)

その記事に、原著の報告論文から関連する結果を、以下に追加で紹介したい。

①高齢者と世代間交流をしたいと回答した学生が53.8%に上り、交流したくないとした3.7%を大きく上回った。どちらでもよいと回答したのは42.6%だった。他方、スリランカのコロンボ市内・近郊の国立大学に在学する3,4年生600(男子229人、女子371)を対象に同質問に対する回答を求めた結果、高齢者と世代間交流をしたいと回答した学生が68.8%に上り、交流したくないとした3.0%を大きく上回った。どちらでもよいと回答したのは30.7%だった。

 ②親孝行について複数回答で聴いたところ、「親の話し相手になったり、親と頻繁に交流すること」が64.8%とコミュニケーション型が最も多く、次いで「自分が自立し、親に心配かけないこと」の59.2%、「親の身の回りの世話をしたり、看病すること」の18.7%が続いた。他方、スリランカの学生は、「親の話し相手になったり、親と頻繁に交流すること」が47.7%とコミュニケーション型が最も多く、次いで「親の身の回りの世話をしたり、看病すること」の45.2%、と直接の介護を担う意識も同様に高く、「自分が自立し、親に心配かけないこと」の13.0%、「親を経済的に扶養すること」3.8%の言わば遠隔的な親孝行意識は少なかった。両国で明らかな違いが認められた。

 ③日本の高齢者問題については「相当深刻である」と79.2%が回答、「よく分からない」としたのが20.1%、「全然問題ではない」としたのが0.7%あった。他方、スリランカの学生は、「相当深刻である」と51.7%が回答、「よく分からない」としたのが44.0%、「全然問題ではない」としたのが4.3%あった。両国の高齢化率の相違が,回答割合に反映している結果であった。

 ④年とった親が施設に入所することについては、「できるだけ施設入所は避けたい」が46.5%、「家庭での介護が無理だから、そうせざるを得ない」が39.8%、「あまりよく分からない」が11.2%、「親不孝である」が2.4%だった。他方、スリランカの学生は、「できるだけ施設入所は避けたい」が62.8%、「家庭での介護が無理だから、そうせざるを得ない」が3.2%、「あまりよく分からない」が9.7%、「親不孝である」が27.0%だった。施設に入所することを、親不孝と考える割合に、両国で10倍以上の差異がみられ、親孝行の意味内容に大きな違いが認められた。この調査に興味のある読者は、以下の報告論文にアクセスしてみて下さい。

  (出典: 大学生の親扶養意識と高齢社会に対する関心度ならびに老いのイメージに関する2国間比較研究、東海大学健康科学部紀要 第2089-1022014)                         (担当・谷口)

 

国もエイジング教育に一歩踏み出すか? ~介護は、日本社会の喫緊の課題~

 今年度の芥川賞作品 「スクラップ・アンド・ビルド」(羽田圭介著、文芸春秋刊)は、祖父(要介護老人?)とその孫が、同居での介護つながりを通しての攻防戦を描いた小説である。たまたま失職中の30歳代の孫と母方の80歳代の祖父と同居中の不思議な交流である。初めは、祖父の存在を全く意に介せずにいた孫が、ふと祖父がそばにいることに気づき、祖父の挙動に関心を抱き始め、介護の真似事を始める。やがて祖父の自立を妨げることが、祖父の幸せ=自然死?につながるという確信に至り、介護予防と逆の対応を始めるのだ。若者世代の高齢者に対する関心を呼び覚ます契機になる小説と思う。
   
 この小説とつながる話題を一つ。2015.8.24の参議院の集中審議の中で、新党改革・無所属の会・新井広幸議員が文科大臣と厚労大臣に答弁を求めた。それは、「国民総ヘルパー制度の構築について」だ。それは以下のような試案であった。

「‥‥中学生・高校生に、正規のカリキュラムにおいて、介護ヘルパーの資格を取得させ、

 家族や地域でサービス提供者として算入させてはどうか?」という提案。2020年にはサービス提供者は226万人必要とのこと、しかし、現在の見込みでは、介護の離職者、サービス提供者の高齢化などから、206万人が供給されるものの20万人の不足が見込まれるとのこと。その不足分を、どのようにして充当するかという問題意識からの提案だった。

 中学校は、国公立で約9千校程度、私立校で約5千校程度あるとのこと。中学の12生の時に、正規のカリキュラムで、初任者研修資格(旧・ヘルパー2級資格)等を取得させれば、高齢者への関心も高まり、やがて地域福祉の担い手として育つという考えだ。

ついにこのような提案が、全国放送の国会中継で、堂々と議題になったことに驚いた。ついに、国も介護問題、超高齢社会のエイジング教育に一歩踏み込んだのか!と‥。その提案に対して、文科大臣も厚労大臣も、賛意を述べていた。

 新科目「公共」を設ける案が、文科省の「中央教育審議会」で、目下の検討課題になっているらしい。この科目で、介護の意義や社会保障制度などを詳しく教えるという内容が検討されているとのこと。高齢者問題は、火中の栗で誰も手を出さない?ままになっていたが、ついに拾わざるをえなくなった!。読者の皆さんは、どう思いますか。(担当・谷口)  

2015年9月21日

老いの受容と70%満足論


 超高齢社会の進行とともにアンチエイジング、サクセスフルエイジングといった概念が、さかんに喧伝されている。この背景には、老いを撃退し、中年期を維持し続け、ピンピンコロリの最期を迎えたいという人々の思いが見てとれる。老年期をネガティブにとらえるのではなく、ポジティブに生きようとする姿勢は評価される。しかし、年相応の能力低下は、健全な発達の証しでもあり、本来はそれに即した生活設計が求められる。

老いの受容は大切なことである。その上で、目標や希望を見いだし、自分の周りに対する感謝や社会に対する貢献の気持ちを忘れなければ、幸福感は増していく。そうした考え方が、プロダクティブエイジングである。

生き方論的に言えば、70%満足論と言える。すなわち、自分の希望は70%程度充たされれば、それでよしとする寛容さを持つことが大事である。自分の責務をきちんと果たすが、他人に対しては、さらりと受け流していく。こうしたゆとりと寛容さがあれば、ストレスをためずに済む。老年期を生きる人々であれば、これができるはずだ。

高齢ドライバー問題に当てはめてみると、65歳を超えたあたりからは、交通量の多い道路、混雑した時間帯、不馴れな道路、そして夜間や天候の良くない日の運転は基本的に止めてみてはどうだろうか? いわゆる「補償的運転行動」の励行である。こういう時こそ、まさに車を運転する価値があると反論する人がおられると思うが、不便さの受け入れこそが、老いの受容の出発点なのだ。

こうした心の準備を積み重ね、身近なところで目標や希望を見いだしながら、感謝と貢献の気持ちを忘れなければ、必ず新たな生きがいを生み出していくことができる。そして、このことに気がついた人は、やがて訪れるであろう「運転免許の自主返納」の時も自然に受け入れられるはずである。(所正文)

「労働時間は9時~17時の8時間」という常識を疑ってみる


 ホワイトカラーの労働者の労働時間といえば、月曜日から金曜日の9時~17時まで18時間、計40時間働き、土日が休み、というのが一般的なイメージであろう。実際は残業が発生するためこれよりは長くなるかもしれないが、週の労働時間が原則40時間というのは労働基準法にも定められていることである。

 そのような常識に疑問を投げかける研究がある。オックスフォード大学のポール・ケリー博士の研究によれば、9時~17時という一般的な就業時間は従業員のパフォーマンスを落とし、健康を害する原因になるので55歳以下の人には適していないのだという。博士は、従業員の始業時間は10時にするべきで、9時から働き始めるのは55歳になってからのほうがよいと言っている。さらに、長時間労働などで睡眠不足になっている人は多いが、16時間未満の睡眠が1週間続いた場合、711個の遺伝子機能に変化が生じるとの研究結果もある。


 また、現在スウェーデンでは、第2の都市ヨーテボリにおいて、18時間労働を6時間に短縮する社会実験が行われている。その結果、時間が貴重だとの意識が強まり、6時間で帰宅できるようにかなり集中力が高まるそうである。この実験は来年まで続く予定で、現在のところは効率は上がるが成果は下がるという状況になっているようだが、結果に注目したい。

http://labaq.com/archives/51857069.html

 このように、日本でも労働時間については従来の常識にとらわれることなく、始業時間をずらしたり、時間を短くしたりする工夫がもっとあってもよいのではないだろうか。(鈴木聡志)