2016年1月4日

新刊書籍の紹介


 この度、日本応用心理学会企画『現代社会と応用心理学』(全7巻)が刊行された。日本応用心理学会理事長の「刊行にあたって」という序文によると、応用心理学会の第一回大会が1946年に開催された以来、本年(2015)まで計80回大会が開催されており、学会設立以来、長い歴史を重ねているとのこと。今回、応用心理学の関係領域のなかから、現代を象徴するトピックを取り上げ、学会企画として上梓することになり、ついに本企画の全7冊を刊行するに至ったとのこと。

添付の書籍の表紙写真は、その第7巻目の著書「高齢社会」(12/20/2015刊行、福村出版)である。応用心理学会常任理事の内藤哲雄氏と玉井寛氏の編集になるもので、トピック1からトピック24まで取り上げられている。本セミナーの共同運営者である谷口幸一がトピック1「現代社会と高齢化」を、また同じく所正文がトピック6「高齢者の交通安全」を執筆している。全体を通読することによって、現代の心理社会的分野の老年学の課題の全容が明らかになるものと思う。老いの生活課題を見通すのに役立つと思われる。

Washington,D.C. 2015.11.5.6 snaps 関係者の学会活動

Washington,D.C. 2015.11.5.6 snaps  関係者の学会活動 その1

Washington,D.C. 2015.11.5.6 snaps  関係者の学会活動 その2

経営者の経営理念は労働環境に大きな影響を与える

参考記事

 2008年にワタミグループの居酒屋「和民」で、女性社員が入社2か月で過労自殺し、遺族が損害賠償を求めていた裁判で、創業者で現在は参議院議員を務めている渡辺美樹氏らが約13千万円を支払うことで和解が成立した。渡辺氏は自身の法的責任を認めて謝罪したほか、ワタミは労働時間を正確に記録し、未払いの残業代を支払うなど、労働環境の改善策も和解内容に含まれているという。

 そもそも、なぜこのような悲劇が起きてしまったのか。渡辺氏はワタミを一代で大企業に育て上げ、食品宅配や介護事業にも進出するなど、優れた経営者であることは間違いない。その一方で、社員に過酷な労働を科すことでも知られており、「24時間365日死ぬまで働け」とまで言われていたという。ワタミはブラック企業という言葉が普及し始めた当初からそのように認識されており、元祖ブラック企業ともいえる存在であった。

 渡辺氏は自身が過酷な労働を経て成功したという経験から、人間はがむしゃらに働くことで幸せになれると信じ、それを社員にも押し付けていたのではないだろうか。しかし、すべての人間がそのような労働に耐えられるわけではない。自分に出来ることは人にも出来るはずだという思い込みが、今回の出来事につながったのではないか。

 逆に、経営者が社員のことを大切に思っているならば、その会社の労働環境も良いものとなるだろう。しかし、労働環境が経営者によって左右されるというのでは、リスクが大きすぎる。労働環境が経営者の影響を受けすぎないように法律などの環境を整えていくことが必要である。(鈴木聡志)

2015年12月20日

自動運転の技術開発と検討すべき課題


人が自動車を運転するという行動は、刺激を知覚し(認知)、その意味を読み取り(判断)、それに対する適切な行動をとる(操作)という一連の機能から構成されている。
まず認知機能とは、運転に必要な情報を摂取する機能を指す。運転に必要な情報の80%は目を通して摂取されているため、基本的に視覚機能を通して行われると言っても良い。そして、視覚機能は加齢の影響を最も早く受け、40歳代後半から低下し始める。
次に判断機能とは、情報内容を適宜分析し、運転行動に結びつく意志決定を行うことである。例えば、赤信号が点灯していれば車を止めるという意志決定を行う。また、交差点で対向車が迫っていれば、その距離とスピードを瞬時に把握し、自車両の右折が可能であるかどうかの意志決定を行う。
そして、操作機能とは、意志決定に基づき、運転行動に直結する操作を行うことである。具体的には、ブレーキを踏む、ハンドルを切るといった行動を指す。
 自動車の運転に求められる「認知-判断-操作機能」は、心理学的には、筋能力と感覚との調整(協応)能力といった「サイコモーター特性(精神運動能力)」で説明される。サイコモーター特性は、加齢に伴い劣化することが一般的に知られている。そのため、認知機能に関しては、高性能カメラ、レーダーなどで車の周囲を360度常にチェックすることにより、障害物や道路標識を発見したり、あるいは他車との距離を計測することにより、人間の見落としをカバーしている。
 判断機能についても、カメラやレーダーからの情報を人工知能で高速処理し、交通ルールや地図データと照合し、車の走行や停止の意志決定に結びつけていく。
 操作機能に関しては、人工知能の判断をもとにハンドル、ブレーキ等が電気信号で瞬時に正確に操作され、ドライバー自身は全く運転操作に関与しなくても良いことになる。
 したがって、自動運転システムとは、自動車に各種センサーや、人工知能を備えたコンピューターを取り付け、人間が操作することなしに自動走行する技術を指すと言える。
 これによって、免許を失効した高齢者や体の不自由な人が、自動車で移動できるようになったり、運転者の単純ミスによる事故が減り、安全性が大幅に向上する。さらに、渋滞軽減なども実現可能になる。こうした交通社会への移行が徐々に進んでいるが、2020年代以降には本格化すると見られている。
 しかし、自動運転社会がもたらす新たな問題も同時に指摘され始めている。私は次の4点を指摘したい。

(1)ジュネーブ条約見直しの議論
ジュネーブ条約とは、自動車を含め、人命を左右する乗り物にはパイロットやドライバーが乗っていないといけないとの合意事項を各国で批准したもの。世界中に9億台走る自動車分野で、自動運転技術が急激に進めば、条約見直しの議論が高まる可能性がある。

(2)事故責任の帰属先問題
事故責任の大半が、従来は運転者に帰属し、自動車メーカーに責任が及ぶことは稀であった。しかし、自動運転車の場合、車の所有者や同乗者に対する責任は問いにくく、 製造元責任が問われる可能性が高い。これを自動車メーカーが受け入れるかどうかが、今後の焦点となる。

(3)セキュリティーとプライバシー問題
 個人走行データが自動車メーカーや警察に送られ蓄積されることになる。IT技術に長けた人物が、自動車に設置された各種センサーや、人工知能を傍受することにより、新たな犯罪が起こる可能性がある。

(4)市場受入れの条件としての提案
 以下の2点を提案したい。
安全性、セキュリティーの面での技術が、一定水準を超えるまでは市場導入は認めない。ハードルを高く設定し、技術者の方々にはそれを超える努力をして頂きたい。
70歳(あるいは65歳)以上ドライバーに対して、優先的に自動運転車を低価格で販売する。ただし、自動運転によるマイカー走行は、地方エリアに限定し、公共交通機関が充実している都市部では認めない。この政策が、高齢者の地方移住をもたらし、地方創生に結びつくことを期待したい。(所正文)

2015年11月21日

21世紀日本研究セミナー第9回開催案内


●開催日程:
    20151128日(土)
       セミナー:1430分~17時頃まで
       懇親会 :1745分~19時半頃まで

●開催場所:
 セミナー:立正大学品川キャンパス・9号館9B16教室
 懇親会 :立正大学品川キャンパス・教員レストラン(2号館12階「芙蓉峰」)

●セミナー内容:
【交通・生活系】「高齢ドライバー調査を受けて」

●プログラム:
開会挨拶:1430分~1440分(10分)
 所正文(立正大学)
話題提供:1440分~1540分(60分)
【テーマ】高齢ドライバー調査研究報告
 話題提供者・学生(1)1440分~1455分(15分)
 話題提供者・学生(2)1455分~1510分(15分)
 話題提供者・学生(3)1510分~1525分(15分)
 話題提供者・学生(4)1525分~1540分(15分)
質疑20分:1540分~1600
休憩10分:1600分~1610
指定討論:1610分~1650分(40分)
【主な内容】高齢ドライバー研究の方向性
 指定討論者:所正文(立正大学心理学部)
全体討論:1650分~1710分(20分)
次回案内・記念撮影:1710分~1725分(15分)
セミナー閉会

●懇親会:
  会場:立正大学・教員レストラン(2号館12階「芙蓉峰」)
  日程:1745分~19時半頃まで
  会費:社会人(3000円),学生(1000円)

高齢ドライバー問題に隠れた歩行者事故問題の重要性


2015年は、高齢ドライバー問題が大きな社会問題となり、世論の関心は高く、新聞やテレビで取り上げられる機会も増えている。高齢者が自動車事故の加害者となるケースが増え、認知症を患ったドライバーによる事故も起きている。今年に入って、75歳以上の高齢者講習時に実施される認知機能検査に基づく免許更新手続きを、より厳しくする道路交通法改正が行われた。高齢ドライバーを取りまく中年以下の人たちの意見は大変厳しく、「危ないから運転は止めてほしい」が最大公約数であり、高齢ドライバーの運転は法律で禁止してほしいと言う意見まで出ている。

 しかし、マスコミが高齢ドライバー問題を誇張して報道する余り、最も重要な問題が見逃されている。1990年代後半から交通事故死者数は大幅に減少しているが、死者数全体に占める65歳以上高齢者の割合は年々増加し、2009年に遂に50%を超え、その後も増加している。そして、65歳以上の死亡事故のおよそ半分は「歩行中」である。さらに、歩行中の死亡事故は、交通事故死亡者全体で見ても3分の1以上を占め、先進国の中で突出して高い。すなわち、日本の交通事故問題は、歩行中の死亡事故問題が最大の問題であり、超高齢社会の進行と共に、とりわけ高齢者が犠牲になるケースが増えているのである。これが見逃され、高齢ドライバー問題ばかりが取り上げられていることが大変懸念される。

歩行中の死亡事故が多い背景には、1970年代以降、車社会が急ピッチで進み、歩道の整備が大幅に遅れていることがあげられる。多くの自動車が歩道のない狭い道を行き交い、高齢者が溝板の上を歩かざるを得ない光景は、地方社会のどこでも見られる。交通社会の原則からすれば、歩行者、自転車、公共交通機関、そして自動車は、交通参加者として対等であるはずであるが、日本の交通社会では、自動車に大きな優先権が与えられている。これは欧州の交通社会ではあり得ないことである。対策としては、自動車優先主義を改め、走る凶器になる自動車を操る全ドライバーに対して、厳しい条件が課される必要がある。決して、一定年齢以上の高齢者だけをターゲットするべきではない。この考え方を交通政策の根幹に据え、そうした政策を積み重ねていけば、必然的に高齢ドライバーの免許の自主返納へとつながると考えられる。(所正文)

ブラックバイトについて


 最近、「ブラックバイト」という言葉が世間を賑わせている。もともと「ブラック企業」という言葉があり、これは長時間労働や残業代未払いなどの悪い労働環境にある企業を指す言葉で、従来は主に正社員が被害に遭うとされていた。ところが、企業の人件費抑制方針により、派遣社員やアルバイトなどの非正規雇用が増大し、彼らにも違法なサービス残業や賃金未払いなどの皺寄せが行くようになり、「ブラックバイト」などと騒がれるようになった。

 ブラックバイトに関しては、例えば次のような問題が報じられている。仙台市のバーでアルバイトをしていた男子学生は、次第にほぼ毎日の勤務を求められるようになった上、7か月分の賃金が支払われず、さらに赤字の補填を強要され、「売り上げが少ない」と暴力を振るわれていたという。男子学生は経営者に対し、未払い賃金の支払いを求める訴訟を起こしている。また、某飲食チェーン店では、男子学生が4か月間毎日12時間勤務をさせられた上、一部の賃金が未払いで、ミスにより商品購入を強要され、「殺してやる」などと恫喝され、退職の申し出に4000万円の損害賠償請求を示唆された。男子学生は鬱病を発症し、大学の単位も取れなくなってしまったという。

 このような問題に対して、「辞めればいいではないか」という声もある。しかし、パワハラや暴力、契約書による支配、損害賠償などの金銭請求といった「職場の論理に従属させる人格的支配」が行われ、さらに貧困により学費を稼がなければならないという事情も重なり、簡単には辞められないのである。

 ブラックバイト問題は、当事者一人で解決するのは困難である。もしこの問題で困っていたら、家族、友人、大学の教職員や、ブラックバイトユニオンといったNPO法人などに相談することをお勧めする。(鈴木聡志)