高齢ドライバーに対して、運転免許の自主返納を求める動きが高まってきている。先月の小欄では、「運転免許センターに看護師を配置し、病気相談に応ずる」という交通安全システムを紹介した。2015年2月に熊本県で最初に導入されてから、鳥取県、宮崎県、大分県、佐賀県と、この1年間で続々と導入する自治体が出てきている。
看護師導入システムが注目される背景として、現在の免許行政の対応が、余りにも認知症ドライバー対策のみに偏りすぎていることが挙げられる。先月の指摘の繰り返しになるが、高齢者皆免許時代が迫る中で、運転に不適な様々な疾病を患う高齢ドライバーが、次々に出現している。そのため、免許更新現場に経験豊富な医療関係者を同席させ、病気を持つ高齢ドライバーに対して、免許返納の決断を促す役割が必要になってきている。高齢者講習時に運転適性検査や認知機能検査を実施し、テスト結果を元に緩やかな線引きを行い、高齢ドライバーに対して、自発的な安全運転行動を促す方法は、もはや限界に来ている。医療関係者の責務は大変重い。地方社会で生活する高齢者に対して、命綱ともいえる運転免許証の自主返納を求める際には、免許返納後の移動手段の確保と同時に、メンタル面でのケアを怠ってはならないからである。こうした重い役割が課されている。
高齢ドライバー側も、交通警察の関係者、あるいは生活現場に密着していない医師から運転免許の返納を勧められた場合には、すんなりとは受け入れられない場合が多いとされる。その理由として、高齢者講習現場での認知機能検査結果が芳しくなくとも、運転は問題なくできる場合が多く、医学的検査に不信感を抱いている高齢ドライバーが少なくないことがある。しかし、生活現場に精通した医療関係者が丁寧に話を聞き、その上で危険性を説明し、運転免許返納後の生活の問題についても相談に乗れば、病気を抱える高齢ドライバーは自ら納得して、運転免許を自主返納する道を選ぶ可能性が高まってくる。
全国に先駆けて、運転免許センターに女性看護師を配置した熊本県では早速効果を挙げている。看護師導入後1年が経過した現在、免許返納数が対前年と比較して着実に増えている。しかし、運転免許を自主返納した高齢者の移動手段の確保策については、まだまだ十分とは言えないとのことである。交通関係者のみならず、地域社会、さらには国民社会全体において知恵を振り絞り、超高齢社会の交通システム、そして高齢期の生き方について考えていく必要がある。今後の大きな課題である。(所正文)