2016年5月30日

サラリーマン川柳に見る現代人の悲哀



 本コラムでは、これまで現代社会の労働に関する問題を真剣に扱ってきたが、今回は少し趣向を変えて、やや柔らかめの話題を取り上げようと思う。
 先日、第一生命保険株式会社が主催している「サラリーマン川柳」の第29回優秀作品が発表された。これは、サラリーマンをはじめ、OL、主婦、学生などが日常に起きる何気ない出来事を、ユーモアと風刺のセンスで表現した作品であり、1987年から毎年募集している。今回の最優秀作品は、「退職金 もらった瞬間 妻ドローン」というものであった。最近流行の小型無人機・ドローンと、近年増加している熟年離婚を掛けたものである。他の作品を見ても、基本的に哀愁漂う内容となっている。
 本コラム筆者は、とある機会に、過去のサラリーマン川柳の内容を分析してみたことがある。その結果、一番多く登場した言葉は「妻」であった。今年のベスト10作品にも、1位と8位の作品に「妻」が入っている。また、初期の頃は仕事に関する内容が多かったが、年代を経るごとに仕事に関する言葉は減少していった。一方、家庭や配偶者に関する言葉は増加していった。これは、人々は人生において仕事に重点を置くよりも、徐々に余暇や家庭に重点を置くように変化していったためと考えられる。また、サラリーマン川柳自体にある程度の歴史があることを考慮すると、投稿者が高齢化していて、すでに子どもは手が掛からなくなり、仕事も落ち着いており、その結果、身近な存在である配偶者に意識が向くようになったとも考えられる。
 しかし、内容が仕事から家庭のことに変化しても、悲哀を伴うものであることには変わらない。そもそも「サラリーマン」という言葉自体に、あまりいいイメージが無いように感じられる。それは、単に労働者というよりも、どのような辛いことがあっても、それに耐えて、心身を消耗しながら企業のために滅私奉公して働くような人に対して、哀愁や侮蔑的な意味で用いられることもある。さらに、最近はサラリーマンよりもはるかに侮蔑的な意味が込められた言葉として「社畜」という言葉も登場した。これは、会社に飼われ、会社の言いなりになっている奴隷のような社員という意味である。いつの日か、日本のサラリーマンがこのようなマイナスイメージを持たれない日が来ることを願うばかりである。(鈴木聡志)