4月14日晩、熊本県で大地震が起こった。21年前の1995年の阪神淡路大震災並みの大地震であり、大きな被害が出ている。連日懸命な復旧作業が行われていることが報道されている。2011年東日本大震災による心の傷がまだ癒えないわが国であるが、今回もまた、自然の恐ろしさと危機管理の重要性を再認識させられた。全国各地の日本国民は、被災者の方々に対して、一日も早い生活の回復を祈っている。
さて、「運転免許センターに看護師を配置し、病気相談に応ずる」という交通安全システムは、2015年2月に、この熊本県において全国で始めて導入された。アイディアの斬新さから、この1年間でこのシステムを導入する自治体が続々と出てきている。筆者も本年2月末に熊本県で現地調査を行った。
熊本システムが注目される背景として、2015年に改正(施行は2017年頃)された道交法への限界を多くの交通関係者が感じていることがあげられる。同法改正によって、専門医によって認知症と診断されると運転免許は更新されなくなり、認知症ドライバーに対して、より厳しい対応がなされる。しかし、高齢ドライバーが激増する中で、運転に不適な疾病として認知症だけしか注目しない道交法に対して疑問が湧く。加えて、現行の認知症簡易検査は記憶検査主体であるため、出現頻度の多いアルツハイマー型認知症は見いだせるが、前頭側頭型認知症(脱抑制によって交通規則を守る気がなくなる、出現頻度は5%程度)などは見いだせないことが当初から不安視されていた。
そんな中で、昨年秋(2015年10月)に宮崎県で73歳ドライバーによって引き起こされた大事故は、「てんかん」が主因であると報道されている。高齢期にてんかんを発症する人の割合は1%とされ、決して少ない割合ではない。70歳を間近にする団塊世代男性の免許保有率は95%、女性も70%に迫る。高齢者皆免許時代になりつつある21世紀前半の日本社会では、運転に不適な様々な疾病を患う高齢ドライバーが、次々に出現する可能性が懸念される。したがって、高齢者講習現場に疾病の簡易検査を導入し、注意を喚起する方法は限界が見え、新たな方法を模索する必要が出てきた。
熊本システムは、そのヒントを提供してくれる。高齢ドライバーに対して、運転免許の自主返納を求める動きが高まってきているが、地方での広がりは不十分である。その背景には、ドライバー本人に対して、加齢に伴う身体機能低下を分かりやすく説明し、老いを受け容れる方向で優しく助言指導できる専門家が対応していないことがあげられる。こうした役割を担う最適任者は医療関係者であり、一定の人生経験があれば、より望ましい。
具体的に言えば、経験豊かな女性看護師がこれに当てはまる。熊本では全国に先駆けて、運転免許センターに女性看護師を配置し早速効果を上げている。彼女たちは総合医的な医療知識と一定の人生経験、そして地域の交通事情にも精通しているため、高齢者の運転断念後の生活についても一緒に考えることができる。熊本に続いて、鳥取、宮崎でこのシステムが導入され始めている。全国に拡大していくことを望みたい。(所正文)