2016年1月20日

新たに発生した医学適性問題


75歳以上ドライバー対象の高齢者講習では、アルツハイマー型認知症のみに適用される認知機能検査が実施されているが、認知症にはこれ以外のタイプも複数存在する。昨年5月の本欄でもこのことは一部紹介した。とりわけ、交通事故と密接な関わりがあるとされるピック病が捉えられないことは大きな問題である。ピック病とは前頭側頭型認知症であり、脱抑制によって、センターラインを超えて蛇行運転する、交通標識や信号などの交通規則を守る気がなくなるといった特徴がみられる。出現頻度は認知症全体の5%程度とされるが、高齢ドライバーが激増すれば、それに伴い認知症を罹患したドライバーも増えることになり、必然的に5%の占める実人数は大幅増となることが避けられない。
さらに、最近では、てんかん、突発性けいれんなど、認知症とは異なる疾病に起因する高齢ドライバーによる事故が次々に報告されている。昨年10月末に宮崎市中心部で起こった事故もその一つである。今後高齢ドライバーが激増していく中で、こうした疾病の予兆を、運転免許更新現場でどれだけ把握できるかという問題に突き当たる。すなわち、医学適性に関する簡易検査を運転免許更新現場に次々に導入することは困難であると言わざるを得ない。そこで、基本的な考え方と具体的方策について以下に述べたい。

【基本的な考え方】
国民皆免許時代と言われて久しく、自動車運転免許の取得が安易に考えられ過ぎている。この際、免許取得基準および免許更新基準を高めても良いと思われる。要するに、一定年齢以上のドライバー(例えば、高齢者講習受講対象者)に対して、更新基準を強化するのではなく、全ドライバーに対して強化していくということである。

【具体的な方策】
排除の論理が適用される「医学適性」については、免許更新現場に医療関係者が立ち会っていくべきである。具体的には、熊本県で実施され始めた経験豊かな女性看護師のカウンセリングは有力な方法の一つである。医療関係者から免許の自主返納を勧められた場合、家族等から言われるよりも説得力が増すと思われる。ただし、同時並行的に運転断念後の移動手段の確保、並びに高齢者本人に対するメンタル面でのケアを怠ってはならない。免許対策ばかりに目が行きがちな現実は要注意である。(所正文)